俳句総合誌掲載

〇「俳句四季」東京四季出版 2023年4月

「特集 575は突然に 俳人誕生STORY」

どんなきっかけ、どんなタイミングで俳句を始めたか

 かなかなや主なき庭の給餌台   「爽樹」代表 河瀬俊彦

[要旨]

俳句を始めて三か月目の作品、何とか俳句が続けられそうだと思えた句である。

 受講した初心者講座で印象に残ったのは俳句の四つの基本型(藤田湘子考案)である。この基本型は自分の思いを俳句にする際の強力な助っ人を得た気持ちだった。

掲句は、私と同年齢で良く垣根越しに話しをしていた隣のご主人が亡くなった時の私の心境を詠んだものである。基本型の助けがなければ俳句にする事ができなかっただろうと今でも思っている。

俳句総合誌掲載

〇「WEP俳句通信」vol.132

珠玉の七句   河瀬俊彦(爽樹代表)

  冬の水

湧水のやがてせせらぎ冬すみれ

せせらぎの返す木漏れ日青木の実

水底に落葉綾なすアラベスク

水琴窟の音となりたる冬の水

みづうみは鳥の楽園山眠る

沼の皺と見えたるものは初氷

雪掻に工場の朝の始まりぬ

狭山湖

〇「俳壇」2023年3月号(本阿弥書店)

現代俳句の窓   谷川信子(爽樹会員)

  薄化粧

空耳に起こさるる朝花ぐもり

うららけし予定なき日の薄化粧

花菜風明日の出会ひを夢占

ぬかるみのごとき当節陽炎燃ゆ

春愁や小さきポッケに青い鳥

一日の起承転結目刺焼く

令和4年度テーマ別俳句大会「旅を詠む」

令和4年度は「旅を詠む」をテーマに俳句大会が開催され、爽樹俳句会会員から256句(128名)の作品が寄せられました。

6名の選者による特選と選評、および互選入賞句の上位7位までは次のとおりです。

特選と選評

石川 一郎選 『俳句』編集長

特選 旅のやど寝返る先の去年今年    よしだようこ

(選評)寝返りというある一瞬の、なんでもない造作と、悠久の、且つまた、繰り返される当たり前の生活実感としての時の流れ、というものが絶妙に響きあっていると感じました。「先の」という接続も、地味ながら実に練られたもので、去年今年と言えばこの句、という忘れられない一句となりました。

上野 佐緒選 『俳句四季』編集長

特選 停泊の船の痩せゆく炎天下      早山きえ子

(選評)まず、「船の痩せゆく」という表現が素晴らしい。私はこのような表現を俳句で見たことがなかった。炎天下、真夏の暑い盛りである。あらゆるものが暑さで歪んでゆくように見える。港に停泊する船もまた。暑さを活写するような一句でどこか格調も感じさせる。

奥田 洋子選 『俳壇』編集発行人 

特選 宇宙へと旅立つここち蚊帳の中    黛  道子   

(選評)蚊帳の藍色と穏やかに波をうつベールが、宇宙を思わせるのだろう。その想像力の柔軟さと、蚊帳から宇宙への飛躍の大きさが魅力的。実際に旅へ行けなくとも、蚊帳の中から広々とした旅へ誘われる。

松本 佳子選 『俳句界』副編集長

特選 宇宙へと旅立つここち蚊帳の中    黛  道子

(選評)蚊帳の中は、薄布一枚で日常から隔絶された気分になります。その中に居ることを「宇宙へと旅立つここち」と表現。180度囲われている状況が、プラネタリウムと似ているためか、はたまた蚊帳の中の静けさが、宇宙空間へ心を飛ばしたのか。小さな空間から大きな宇宙へ旅立つ心地は素晴しいものだっただろう、と推察します。

河瀬 俊彦選 爽樹俳句会代表

特選 葛の雨壱岐に出会ひし曽良の墓    三宅 照一

(選評)奥の細道に随行した曽良の終焉の地は壱岐である。幕府巡見使の随員として壱岐を訪れた曽良はそこで病を得て、客死したのである。この句の独自性は自分の旅先で曽良の人生の旅に思いを馳せるという、旅の入れ子構造になっていることだが、「葛の雨」も効いており、今回のテーマ詠にふさわしい秀句である。

勝浦 敏幸選 爽樹俳句会幹事長

特選 祖父の待つ島の桟橋花みかん     谷川 信子

(選評)船から身を乗り出すように桟橋に祖父の姿を探す。近づくにつれて、はっきりと祖父の姿が見える。島は今蜜柑の花盛り。緑の中に白い小さな花がたくさんついているのが分かる。作者の心は懐かしさで一杯になる。「花みかん」の爽やかな芳香がよみがえる。祖父との想い出が次々と湧き起こる。平明に景を詠んで深い情を滲ませた。

互選入賞句(上位7位までを抜粋)

1位 23点 夜濯も慣れて八十路の一人旅       秋山  正     

2位 17点 祖父の待つ島の桟橋花みかん       谷川 信子

3位 17点 ふる里ももはや旅人法師蟬        新井 春枝

4位 16点 風花やあの日の宿はダムの底       小林 恵子

5位 14点 広島がヒロシマとなる秋の旅       河瀬 俊彦

5位 14点 生くるとは戻れざる旅二重虹       半田 卓郎

7位 14点 かりがねや絵筆を洗ふ千曲川       岩淵  彰

先師小澤克己を偲ぶ竹寺俳句大会(飯能市・八王寺)

令和4年11月4日(金)、埼玉県飯能市の竹寺(八王寺)にて竹寺俳句大会が34名の参加を得て開催されました。コロナ禍により開催することが出来なかった十周年記念事業の一つとして、ようやく今年度実施されたものです。

まず句碑の前で法要、献花をし、続いて小山顧問から句碑建立までのお話がありました。

その後の懇親会では、竹の器に盛られた精進料理、竹筒のお薬湯が供されました。

先師小澤克己句碑「竹伐るや昨日と明日の真ん中で」の前にて

 

挨拶する河瀬代表



河瀬俊彦選

(特選句)

師の句碑の文字美しき竹の春    山口昌志

(秀逸句)

山茶花や孫弟子吾も句碑拝す    土門秀子

貴公子めく竹の一本秋気澄む    内藤紀子

師の種の大樹となりし秋の山    伊藤弘幸

そつと触る先師の句碑や暮の秋   箕輪花凜

この紅葉きつと先師の贈物     大須賀容子



川口 襄選

(特選句)

竹の春明日のための今日があり   野木和美 

(秀逸句)

竹騒のさやかな声や克己句碑    小峰光子

竹伐りて言葉の森のしるべとす   河瀬俊彦

師系とふえにし貴し檀の実     小林眞彦

金秋の風と先師に会ひに来し    加藤つね子

竹春や先師の句碑の大きこと    黒岩裕介



小山徳夫選

(特選句)

竹林の蒼き静寂や暮の秋      山口昌志

(秀逸句)

師の句碑を抱く竹林秋気満つ    早山きえ子

師の句碑は秋光となり空は晴    港 寿子

克己碑に寄り添ふごとき真弓の実  本庄準也

師の詩魂しかと心に新松子     早山きえ子

盤石な句碑晩秋の風の中      坂本ひさ子



橋本良子選

(特選句)

銀河へと続く道あり竹林に     横山百江

(秀逸句)

小春日や句碑に供養の鉦の音    須藤國雄

吹き変はる千年の風竹の春     小倉美恵子

師の句碑を抱く竹林秋気満つ    早山きえ子

紅葉かつ散る遠嶺のとこしへに   阿部昭子

竹眼鏡に探す師の影秋気澄む    川口 襄

懇親会の様子

俳句総合誌掲載

〇「俳句四季」2022年11月号(東京四季出版)

「巻頭句」 河瀬俊彦 (「爽樹」代表)

 うつし世の塵を浮かべて水澄めり

 葛の花ロストボールをまぬがるる

 どんぐりの青きまま落ち転がれり



〇「俳壇」2022年11月号(本阿弥書店)

「現代俳句の窓」

「時を刻む」 勝浦敏幸(「爽樹」幹事長)

 職人の静脈太き残暑かな

 老成はまだ先のこと法師蟬

 ムックりの流るるコタン星流る

 週末へ時を刻むや鉦叩

 秋茄子や灰汁に染まりし母の指

 戸隠の杉の参道霧時雨



〇「俳句界」2022年12月号(文學の森)

作品6句「ガラスの小瓶」 橋本良子(「爽樹」顧問)

 つんつんと籾殻焼きの薄煙

 窓際に硝子の小瓶星冴ゆる

 立爪の指輪いづこに冬の星

 夜回りのしんがり星を叩きつつ

 白壁に星影ゆるる枯尾花

 裸木となり未来ある星探す



〇「俳壇」2022年12月号(本阿弥書店)

句集出版よもやま話 河瀬俊彦(「爽樹」代表)

 深きより海神のこゑ箱眼鏡

(要旨)第一句集「箱眼鏡」の句集名は、この句に因った。瀬戸内海の小島で育った私は、夏になると水中眼鏡をかけ、素潜りで魚やサザエを捕って遊んでいた。又船べりから海を覗くと、海の底から様々な音楽が聞こえてきた。これらの音と学生時代に読んだ「きけわだつみのこえ」の<こえ>を重ねて詠んだものである。私は、出来るだけ自分の体験に基づいて句を詠みたいと思っている。

句集を出版して気づいたことがある。「個性は意識して出すものではなく、作品の中に自然に滲みでるものである」「隠そうとしても隠しきれずに,滲み出るのが個性である」ということである。自分の言葉で、自分の体験で感じたことを、平明な言葉で詠むと言う今までのやり方を続けようと思っている。



〇「俳壇」2023年1月号(本阿弥書店)

現代俳句の窓

「菊日和」 小山陽子(「爽樹」会員)

 霧深き高千穂に打つ柏手を

 千年を超ゆる大杉鳥渡る

 息継いで色なき風の奥の宮

 機織の音響きをり柿の晴

 亡き母は七人姉妹秋桜

 歳月を共にせし櫛菊日和



〇「俳句界」2022年11月号(文學の森) 

雑詠 柴田多鶴子(「鳰の子」主宰)選

特選 河瀬俊彦(「爽樹」代表)

 桟橋にひたと波音夜の秋   

(選評)夏の終りに秋の気配を感じとるのは、五感のうちどれが一番鋭敏であろうか。      この作者は、桟橋に打ち寄せるかすかな波の音(聴覚)によって感じとった。暑さの極みに次に訪れる季節を思うのはいかにも俳句らしい。夜風の肌触りにも、季節のうつろいを感じる頃である。 



〇「俳壇」2022年12月号(本阿弥書店)

雑詠 山田貴世(「波」主宰)選

特選 河瀬俊彦(「爽樹」代表)

 枝豆の殻の数ほど捨てし夢

(選評)ビールの抓みには持って来いの枝豆。いつの間にかお皿の上には山積みの枝豆の殻。その殻を見て脳裏に過った数々の事柄は全て夢に終わってしまったのだ。中七下五の措辞に作者の言い知れぬ感慨が滲み出た。



〇「俳壇」2023年1月号(本阿弥書店)

雑詠 藤田直子(「秋麗」主宰)選

特選 半田卓郎(「爽樹」顧問)

 早稲香るドア全開の始発駅

(選評)発車ベルが鳴るまで、始発駅では列車のドアを全開にしている。そのドアから 早稲の香が入ってきたという。田園地帯を走る路線の始発駅なのだろう。「早稲」「前開」「始発駅」と言う言葉が明るい未来を感じさせる。

俳句総合誌掲載

〇「俳句界」2022年9月号(文學の森)

作品6句 「星空へ」 勝浦敏幸(爽樹幹事長)

 お喋りのやがて(だんま)り墓洗ふ

 都電きしめき新涼の星ひとつ

 秋入日目深(まぶか)にかぶる野球帽

 秋燕のひらり返れば四分休符

 いななきの嘶きをよぶ宵の月

 星空へつづくこの道芒原


〇「俳句界」2022年9月号(文學の森)

雑詠 能村研三(「沖」主宰)選

特選  関口幹雄(爽樹会員)

  夏立つや挑戦といふ真帆上ぐる

(選評)六十年前、一人で太平洋をヨットで横断した堀江謙一さんが八十三歳になって、今度は世界最高齢で単独無寄港の太平洋横断に挑戦し無事成功した。この挑戦は多くの人に勇気と感動を与えた。掲句の「挑戦といふ真帆」を上げたのはまさしく堀江さんの航海のことを詠んだものだろう。


〇「俳句界」2022年10月号(文學の森)

雑詠 大串 章(「百鳥」主宰)選

特選  鈴木正浩(爽樹会員)

  滝となる前の流れの音もなく 

(選評)滝になる前の静かな流れを画いて臨場感があり惹かれる。静かに流れる川が崖や急斜面に来ると、いきなり音を立てて飛沫を飛ばして滝となる。川から滝に変化する水の流れは魅力的で滝マニアも多い。『滝王国ニッポン』『この滝がすごい!』など滝に関わる本も多数出版されている。

第4回爽樹吟行俳句大会(小江戸川越)

川越市は大正十一年に誕生した県内初の市で、当時の人口は三万人。現在は人口三十五万人を超える中核都市となっている。

今年は、十二月に県内で初めて市制百周年を迎える。

この記念すべき年の6月29日にウェスタ川越において、第四回爽樹吟行俳句大会が、72名の参加を得て盛大に開催された。

挨拶する河瀬代表


4人の選者選及び参加者互選(選者選加算)の結果は次のとおり。

◇選者選

《河瀬俊彦・特選》

天 百年を吹いて小江戸の青田風   黒岩 裕介 

地 凪の日の白波のごと半夏生    野木 和美

人 虎杖の花や小江戸の船着き場   松本 光子

  《河瀬俊彦・秀逸選》

七曲り抜けて水無月祓かな    橋本 良子

甘酒を啜る古刹の午後三時    須藤 國雄

中院の散り敷くままの沙羅の花  よしだようこ

白南風や箍まだ青き醬油樽    野木 和美

鐘の音で終はるひと日や大夕焼  角田とも子

駄菓子屋の店番老女蚊遣香    鈴木 正浩

炎帝を睨んでゐたる鬼瓦     一瀬 正子

  

《川口 襄・特選》

天 七曲り抜けて水無月祓かな    橋本 良子      

地 香水や乙女の曳きし人力車    古川みさを

人 百年を吹いて小江戸の青田風   黒岩 裕介

  《川口 襄・秀逸選》

涼しさや路傍にひそと子規の句碑 小倉美恵子

夏蝶のふたつ小江戸の映画館   松本きみ枝

羅漢様と内緒の話夏木立     那須野康子

片蔭や黒漆喰の蔵の町      佐藤 良夫

夏空へからくり人形時を打つ   港  寿子

まづ水を打つて蔵見世のれん出す 小林 眞彦                  

石畳紫紺の蜥蜴横切れり     大須賀容子


《勝浦敏幸・特選》

天 炎天やさても大きな釘隠し    坂本ひさ子

地 白南風や箍まだ青き醬油樽    野木 和美

人 大店の奥の静謐夏のれん     小峯千枝子

  《勝浦敏幸・秀逸選》

涼しさや路傍にひそと子規の句碑 小倉美恵子

本丸の枯山水や四十雀      松本 光子

白シャツの背に長き麩菓子かな  中島ますみ

中院の散り敷くままの沙羅の花  よしだようこ

虎杖の花や小江戸の船着場    松本 光子

師と訪うて早十余年鳰浮巣    半田 卓郎

まづ水を打つて蔵見世のれん出す 小林 眞彦


互選高得点句

第1位 15点

 風鈴や茶舗の小暗き通し土間   一瀬 正子

第2位 13点

 白南風や箍まだ青き醬油樽    野木 和美

第3位 12点

 道灌の顎紐ゆるむ玉の汗     本庄 準也

第4位 11点

 百年を吹いて小江戸の青田風   黒岩 裕介

第5位 9点

 炎昼やさても大きな釘隠し    坂本ひさ子

第6位 9点

 大店の奥の静謐夏のれん     小峯千枝子

第7位 9点

 白抜きの屋号の涼し藍暖簾    箕輪 花凜

第7位 9点

 白日傘氷川の社の恋御籤     永田 歌子

第9位 8点

 虎杖の花や小江戸の船着場    松本 光子

第10位 8点

 炎昼や瓦重たき蔵の町      内田 安彦

吟行俳句大会会場の様子

俳句総合誌掲載

〇「俳句」(KADOKAWA)2022年8月号

 作品12句 「アミノ酸」  河瀬俊彦「爽樹」代表

  樹林帯抜けて立夏の風に逢ふ

  卯波立つ阿波に始まる遍路道

  鎌倉の武士の矢倉や岩煙草

  脱ぎかけの皮引きずつて今年竹

   新句会発足

  若竹や古希も傘寿も伸び盛り

  岩間より上目遣ひに山椒魚

  我こそが先住民とごきかぶり

  噴水やオオタニサンのホームラン

  湖よりの風をくぐらせ朴の花

  誰が住むや青蔦の塀たかだかと

  緑さす夭折画家のデスマスク

  星涼し玉手箱よりアミノ酸