令和三年度テーマ別俳句大会「遊びを詠む」

令和三年度テーマ別俳句大会「遊びを詠む」     

 平成25年度の「祭り」から「愛・恋」、「酒」、「菓子」、「果物」、「手足」、「乗り物」をテーマとし俳句大会を続けてきました。                  令和2年度は十周年記念俳句大会のため、テーマは設けませんでしたが、令和3年度は再び「遊び」をテーマに俳句大会を開催したところです。               大会には266句(133名)の作品が寄せられました。今回は受賞作品の中から一部抜粋して掲載します。

 

互選入賞句(選者選を加算)

1位      32点     ままごとの夫婦いつしか喜寿の春          秋山  正

2位      25点     知恵の輪のするりとぬけて去年今年      よしだようこ

3位      17点     春満月おり紙の象動きだす                      よしだようこ

4位      13点     一日を河童とならむ夏の川                      島田 良子

5位      11点     大井川足止めくらふ絵双六                      佐藤 良夫

同                      白障子母に倣うて指狐                              谷川 信子

同                      縄電車来たよ切符は柿落葉                      松本きみ枝

8位      10点     星空へ吸ひ込まれゆくソロ・キャンプ  小峰 光子                     

9位      10点     無心とは遊びの極み日向ぼこ                  一瀬 正子

10位     10点     雪女遊んで欲しと戸をたたく                  那須野康子

11位     10点     しりとりのしりきれとんぼ蚊帳の中      小林 眞彦                      

12位     10点     銃口は好きな子へ向け水鉄砲                  町田美枝子

(8位から12位までは、選者選の特選、入選の数により決定)

 

選者選による特選句

石川 一郎 選(「俳句」編集長)

 特選  知恵の輪のするりとぬけて去年今年     よしだようこ

(選評)

「去年今年」という季語が持つ重みを、「知恵の輪」と取り合わせ、軽妙に表現した点が斬新。「するりとぬけ」るように去年と今年が入れ替わるという感覚は鋭く、普遍的なもの。「知恵の輪」という洒落た遊び名が存分に生かされている。「ぬけて」をひらがなで表記した点も意識が行き届いており、韻律も秀逸で愛唱性も高い。

 

松本 佳子 選(「俳句界」副編集長)

 特選  横顔を映す手花火すつと落つ         小俣惠美子

(選評)

手に持った「手花火」ではなく、その火が照らす横顔を見ています。この横顔の持ち主は、恋人なのか、つれあいなのか、子どもなのかはわかりませんが、ふと花火に照らされた顔がいつもと違うように見えて、目が離せなかったのかも知れません。日常とは違ったふとした変化への気づき。花火が落ちた後の静けさも感じられます。

 

安田 まどか 選(「俳壇」編集長) 

 特選  ゴム跳びや逆さにみゆる大夏木        安藤ユウ子

(選評)

ゴム跳びには様々な跳び方がある。前向きに踏み切る、足を引っかける、側転や逆立ちをする、等々。ここは恐らく側転ないし逆立ち跳びであろう。一瞬、天地が反転するようなダイナミックな動きにより目に飛び込んできた大夏木。青々と繁った葉が風に揺れて光っている。そんな夏の輝かしい一瞬を切り取って印象鮮明な一句。            

 

上野 佐緒 選(「俳句四季」編集長)

 特選  星空へ吸ひ込まれゆくソロ・キャンプ     小峰 光子 

(選評)

一読、惹かれました。ソロ・キャンプ、一人で行くキャンプという事ですが、孤独感や寂しさはなく、開放感があります。たった一人で大自然の中にいて、頭上には満天の星空。その星空を眺めているうちに吸い込まれそうになっていく、作者の感動がストレートに伝わってきます。気持ちの良い一句でした。

 

河瀬 俊彦 選(爽樹代表)

 特選  乳飲み子の手足遊びや秋麗            岩瀬フジ子

(選評)

子供は遊びの天才である。何でも遊びにしてしまう好奇心に驚かされる。その兆しは赤ん坊にある。生まれて数か月も経つと色も形も認識できるようになり、自分の手足の動きを見て遊び始める。その後も五感と好奇心をフル活用して遊び、学んでゆく。遊びの原点に着目したところに独自性があり、〈手足遊び〉の造語も無理がない。

 

勝浦 敏幸 選(爽樹幹事長)

 特選  園児等の声うらがへる甘藷畑          早山きえ子

(選評)

秋空のもと、子供たちが太陽と風と畑の土に触れて全身で生きる歓びを滾らせ大声を発している。川越周辺でよく見られる光景であり、句に「遊び」らしい言葉はないが立派な遊びの姿を詠んでいる。「いも堀り」の楽しさが「声うらがへる」によって、見事に表現された。

俳句総合誌掲載

〇「俳句界」(文學の森)

2022年2月号  作品10句

一瀬正子(爽樹編集長)

小江戸

 時雨るるや小江戸に多き抜小路

 冬うらら茶舗に小机小座布団

 手相見の手持ち無沙汰や年の市

 鬼瓦に挑む一羽の初雀

 天井の竜のひと鳴き寒波来る

 老い様はそれぞれ風の枯はちす

 日溜りの羅漢の肩に蝶の凍つ

 刃物屋の玻璃戸に寒の薄日差

 日脚伸ぶ木目の浮き出す大鳥居

 棹菓子のあかねがさねや春隣

 

〇「俳壇」(本阿弥書店)

2022年2月号

俳壇雑詠 今瀬剛一 選(対岸主宰)

特選  河瀬俊彦(爽樹代表)

 遠富士のことに輝く今朝の冬

選者評  

立冬の感触をよく情景化している。直感であろう。遠くに見える富士山を「ことに輝く」と表現している。いつもと違って取り分け輝いて見えたのだ。いい感性をしている。澄んで引き締まった空気の感触が快い。

  

〇「俳句」 (株式会社KADOKAWA)

2022年2月号

令和俳壇 星野高士 選(「玉藻」主宰)

推薦 河瀬俊彦(爽樹代表)

 酒盛りにはじまる漁夫の冬支度

選者評

漁夫と聞いただけで酒豪という感じが伝わってくる。海の上なのか、地上なのかはわからないが景気の良さの溢れている作品。妙味なのは冬支度という季語。酒盛りをしたらどことなく冬の支度も垣間見える。作者のものの見方も丁寧で、しっかりと詠んでいた。