〇「俳壇」2025年4月号
特集 行楽の春―春の行事季語を探る 勝浦敏幸(爽樹)
ビキニデー以後磯松の黒すぎる 宮坂静生(岳)
季語「ビキニデー」(傍題「ビキニ忌」)は、『新版角川俳句大歳時記春』(令和四年
二月二十八日初版発行)に掲載されているが、ほとんど知られていない季語である。
ビキニデーとは、昭和二十九年(1954)三月一日、太平洋マーシャル諸島ビキニ環礁で、アメリカが水爆実験を行った日のことである。
この日、マグロのはえ縄漁を操業中の焼津の漁船「第五福竜丸」は被爆し、乗組員全員の二十三人が原爆症となり、久保山無線長は九月に亡くなった。
令和六年十二月十日、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)は、令和六年のノーベル平和賞を受賞した。ビキニデーを契機に国民的に盛り上がった原水爆禁止運動の中で、昭和三十一年(1956)に本協議会が設立されている。
磯松は、低木状の多年草で古い幹は黒く黒松に似ているという。海岸の近くの岩場や隆起したサンゴ礁に生える。飛沫のかかるようなところでも生育できるという。
あの悲惨な結果をもたらした海の向こうの水爆実験の死の灰が磯松の幹を一層黒くしているに違いないと作者。「黒すぎる」のは核実験そのものでもある。