令和4年度テーマ別俳句大会「旅を詠む」

令和4年度は「旅を詠む」をテーマに俳句大会が開催され、爽樹俳句会会員から256句(128名)の作品が寄せられました。

6名の選者による特選と選評、および互選入賞句の上位7位までは次のとおりです。

特選と選評

石川 一郎選 『俳句』編集長

特選 旅のやど寝返る先の去年今年    よしだようこ

(選評)寝返りというある一瞬の、なんでもない造作と、悠久の、且つまた、繰り返される当たり前の生活実感としての時の流れ、というものが絶妙に響きあっていると感じました。「先の」という接続も、地味ながら実に練られたもので、去年今年と言えばこの句、という忘れられない一句となりました。

上野 佐緒選 『俳句四季』編集長

特選 停泊の船の痩せゆく炎天下      早山きえ子

(選評)まず、「船の痩せゆく」という表現が素晴らしい。私はこのような表現を俳句で見たことがなかった。炎天下、真夏の暑い盛りである。あらゆるものが暑さで歪んでゆくように見える。港に停泊する船もまた。暑さを活写するような一句でどこか格調も感じさせる。

奥田 洋子選 『俳壇』編集発行人 

特選 宇宙へと旅立つここち蚊帳の中    黛  道子   

(選評)蚊帳の藍色と穏やかに波をうつベールが、宇宙を思わせるのだろう。その想像力の柔軟さと、蚊帳から宇宙への飛躍の大きさが魅力的。実際に旅へ行けなくとも、蚊帳の中から広々とした旅へ誘われる。

松本 佳子選 『俳句界』副編集長

特選 宇宙へと旅立つここち蚊帳の中    黛  道子

(選評)蚊帳の中は、薄布一枚で日常から隔絶された気分になります。その中に居ることを「宇宙へと旅立つここち」と表現。180度囲われている状況が、プラネタリウムと似ているためか、はたまた蚊帳の中の静けさが、宇宙空間へ心を飛ばしたのか。小さな空間から大きな宇宙へ旅立つ心地は素晴しいものだっただろう、と推察します。

河瀬 俊彦選 爽樹俳句会代表

特選 葛の雨壱岐に出会ひし曽良の墓    三宅 照一

(選評)奥の細道に随行した曽良の終焉の地は壱岐である。幕府巡見使の随員として壱岐を訪れた曽良はそこで病を得て、客死したのである。この句の独自性は自分の旅先で曽良の人生の旅に思いを馳せるという、旅の入れ子構造になっていることだが、「葛の雨」も効いており、今回のテーマ詠にふさわしい秀句である。

勝浦 敏幸選 爽樹俳句会幹事長

特選 祖父の待つ島の桟橋花みかん     谷川 信子

(選評)船から身を乗り出すように桟橋に祖父の姿を探す。近づくにつれて、はっきりと祖父の姿が見える。島は今蜜柑の花盛り。緑の中に白い小さな花がたくさんついているのが分かる。作者の心は懐かしさで一杯になる。「花みかん」の爽やかな芳香がよみがえる。祖父との想い出が次々と湧き起こる。平明に景を詠んで深い情を滲ませた。

互選入賞句(上位7位までを抜粋)

1位 23点 夜濯も慣れて八十路の一人旅       秋山  正     

2位 17点 祖父の待つ島の桟橋花みかん       谷川 信子

3位 17点 ふる里ももはや旅人法師蟬        新井 春枝

4位 16点 風花やあの日の宿はダムの底       小林 恵子

5位 14点 広島がヒロシマとなる秋の旅       河瀬 俊彦

5位 14点 生くるとは戻れざる旅二重虹       半田 卓郎

7位 14点 かりがねや絵筆を洗ふ千曲川       岩淵  彰