〇「俳句四季」2022年5月号(東京四季出版)
作品16句 「命の春」 河瀬俊彦(爽樹代表)
宙を舞ふ雪代山女しなふ竿
山茱萸の光をこぼし咲みこぼし
日だまりは幸せだまり犬ふぐり
草青む子犬は鼻をうごめかせ
老木の匂ふばかりの芽吹きかな
春耕の小石ひろへばまた小石
春泥のはね一つ付けランドセル
春の日のふくらむ関東ローム層
外道とて桜うぐひを放ちけり
ころころと小石ころがす春の波
海城の濠に乗りこむ桜鯛
ぶらんこを漕げよ一番星めがけ
ゆりかごのやうなるしだれざくらかな
退院日つげられし日や辛夷咲く
春茱萸や峠を越えて登下校
ふと我に返ればひとり磯あそび
〇「俳壇」2022年5月号(本阿弥書店)
作品6句 「男の座」 半田卓郎(爽樹顧問)
荒廃の野に命継ぐ冬木の芽
雲を恋ひ雲を浮かべて薄氷
梅開く宿木は亡き男の座
一徹を通す生き方臥龍梅
燕来る枯山水の日溜りに
高々と舞ふ双蝶に空無窮
〇「俳句界」2022年6月号(文學の森)
作品10句 「雲の峰」半田卓郎(爽樹顧問)
身を捨つる美学に徹し夏椿
沖遠く泳ぐ我が子の赤帽子
白杖の人と分け合ふ片かげり
行かざりし片方の道や雲の峰
かなはざる夢は夢とし水中花
海底の珊瑚白化す沖縄忌
世に多き戦の兆し敗戦忌
断崖に途切るる隠岐の大夏野
団梯子登る山小屋月涼し
雲の囲の方形ゆがむ夕日影
〇「俳句界」2022年6月号(文學の森)
雑詠 角川春樹(「河」主宰)選
特選 鈴木正浩(爽樹会員)
長々とリードの伸びて春野かな
(選評)省略の大胆な作品だ。リードの先に愛犬がいることが想定されるが、長々と伸びたリードを画くのみにとどめている。青々とした野に来て、リードをいっぱいに伸ばしながら愛犬が喜び駆けまわっているのだ。