〇「俳句四季」2022年11月号(東京四季出版)
「巻頭句」 河瀬俊彦 (「爽樹」代表)
うつし世の塵を浮かべて水澄めり
葛の花ロストボールをまぬがるる
どんぐりの青きまま落ち転がれり
〇「俳壇」2022年11月号(本阿弥書店)
「現代俳句の窓」
「時を刻む」 勝浦敏幸(「爽樹」幹事長)
職人の静脈太き残暑かな
老成はまだ先のこと法師蟬
ムックりの流るるコタン星流る
週末へ時を刻むや鉦叩
秋茄子や灰汁に染まりし母の指
戸隠の杉の参道霧時雨
〇「俳句界」2022年12月号(文學の森)
作品6句「ガラスの小瓶」 橋本良子(「爽樹」顧問)
つんつんと籾殻焼きの薄煙
窓際に硝子の小瓶星冴ゆる
立爪の指輪いづこに冬の星
夜回りのしんがり星を叩きつつ
白壁に星影ゆるる枯尾花
裸木となり未来ある星探す
〇「俳壇」2022年12月号(本阿弥書店)
句集出版よもやま話 河瀬俊彦(「爽樹」代表)
深きより海神のこゑ箱眼鏡
(要旨)第一句集「箱眼鏡」の句集名は、この句に因った。瀬戸内海の小島で育った私は、夏になると水中眼鏡をかけ、素潜りで魚やサザエを捕って遊んでいた。又船べりから海を覗くと、海の底から様々な音楽が聞こえてきた。これらの音と学生時代に読んだ「きけわだつみのこえ」の<こえ>を重ねて詠んだものである。私は、出来るだけ自分の体験に基づいて句を詠みたいと思っている。
句集を出版して気づいたことがある。「個性は意識して出すものではなく、作品の中に自然に滲みでるものである」「隠そうとしても隠しきれずに,滲み出るのが個性である」ということである。自分の言葉で、自分の体験で感じたことを、平明な言葉で詠むと言う今までのやり方を続けようと思っている。
〇「俳壇」2023年1月号(本阿弥書店)
現代俳句の窓
「菊日和」 小山陽子(「爽樹」会員)
霧深き高千穂に打つ柏手を
千年を超ゆる大杉鳥渡る
息継いで色なき風の奥の宮
機織の音響きをり柿の晴
亡き母は七人姉妹秋桜
歳月を共にせし櫛菊日和
〇「俳句界」2022年11月号(文學の森)
雑詠 柴田多鶴子(「鳰の子」主宰)選
特選 河瀬俊彦(「爽樹」代表)
桟橋にひたと波音夜の秋
(選評)夏の終りに秋の気配を感じとるのは、五感のうちどれが一番鋭敏であろうか。 この作者は、桟橋に打ち寄せるかすかな波の音(聴覚)によって感じとった。暑さの極みに次に訪れる季節を思うのはいかにも俳句らしい。夜風の肌触りにも、季節のうつろいを感じる頃である。
〇「俳壇」2022年12月号(本阿弥書店)
雑詠 山田貴世(「波」主宰)選
特選 河瀬俊彦(「爽樹」代表)
枝豆の殻の数ほど捨てし夢
(選評)ビールの抓みには持って来いの枝豆。いつの間にかお皿の上には山積みの枝豆の殻。その殻を見て脳裏に過った数々の事柄は全て夢に終わってしまったのだ。中七下五の措辞に作者の言い知れぬ感慨が滲み出た。
〇「俳壇」2023年1月号(本阿弥書店)
雑詠 藤田直子(「秋麗」主宰)選
特選 半田卓郎(「爽樹」顧問)
早稲香るドア全開の始発駅
(選評)発車ベルが鳴るまで、始発駅では列車のドアを全開にしている。そのドアから 早稲の香が入ってきたという。田園地帯を走る路線の始発駅なのだろう。「早稲」「前開」「始発駅」と言う言葉が明るい未来を感じさせる。