「爽樹」創刊十周年記念事業の中、「小澤克己句碑建立俳句大会」と「記念祝賀会」はコロナ禍の為、相次いで中止となった。
「爽樹季語別選集」、「爽樹の理念」のリーフレット、「爽樹」創刊十周年記念特集号は予定どおり進み既に発行されている。
さらに「爽樹」創刊十周年記念俳句コンクールは、「爽樹」創刊十周年記念特集号に結果が詳細に掲載されている。
「爽樹」創刊十周年記念俳句大会は、爽樹誌3月号に結果が掲載された。今回はその結果を抜粋で紹介する。
岩淵 喜代子選「ににん」代表
特選 名月に濡れざるものを影といふ 黒岩裕介
(選評)月光に照らし出されたものと、そうでないものを区別することで、風景を模様化させている。ともすれば曖昧で情緒的になりがちな影や月光を具象化させたのである。そのために、シュールな風景に見えたり、童画の様に思えたり、どこか懐かしさを感じさせたりする。
準特選 静けさの野点を包む月明り 中臣由紀
準特選 星月夜爽樹の下の詩人たち 斉藤道正
佐怒賀 直美選「橘」主宰
特選 そこひなき闇のにほひや地虫鳴く 松浦雅美
(選評)実景でありながらも幻想的な世界を、端的に上手く詠み切った。誰もが聞き、感じたであろう、現世と冥界とを繋ぐような「地虫の声」が、「闇のにほひ」に焦点を当てたことにより、臨場感をもって一気に迫って来る。また、「そこひなき」が垂直軸の無限の深さを強調し、今にも足下の「闇」に果てしなく落花していきそうである。
準特選 渓流を滾らせてゐる曼珠沙華 山口昌志
準特選 みなしごの馬の瞳や赤のまま 野木和美
山田 貴世選「波」主宰
特選 より高く風を捉へて鷹舞へり 坂本ひさ子
(選評)古来から鷹狩りに用いられたり「一富士二鷹三茄子」と、初夢では𠮷舞の代表ともなっている鷹。また「鷹は餓ゑても穂をつまず、渇しても盗泉の水は食はず」とも言い猛禽であるが、その姿には威厳もある。掲出句、高く舞い上がり獲物をねらう鷹の姿を的確に捉え格調高く詠われた。
準特選 学舎は心の母港樟若葉 永田歌子
準特選 爽やかに樹は育ちつつ一昔 小林公一
吉田 千嘉子選「たかんな」主宰
特選 ふる里の冬日ゆたかに沈みけり 関田愛子
(選評) 冬の弱日が大地を華やかに染めながら沈んでゆく。圧倒的な夏の落日とは違う別の美しさがあり、ふる里を持つ誰もが知っている光景である。どんな時も太陽は朝に昇り夕に沈み、私たちに力を与え続けてきたことを改めて思い起させる。平明な読みが心地よく、「ゆたか」と「沈む」、一見対照的な措辞に深さを持たせて見事。
準特選 一徹の父大輪の菊咲かす 須藤綾子
準特選 十年経て緑蔭をなす爽樹かな 河瀬俊彦
河瀬 俊彦選「爽樹」代表
特選 卓上に木の実ひとつと星図鑑 橋本良子
(選評)木の実と星図鑑、読み手に差し出されたのはふたつの物だけ。後は読み手に任せるという潔さがこの句の魅力。昼は野山で遊び、夜は星空を眺め、秋を満喫しているのだろうか、それともそれがかなわぬようになり、過ぎ去った日々を回想しているのだろうか。名詞と助詞だけで良い句が詠めることを示す句である。
準特選 夜学子の授業の前の握り飯 鈴木正浩
準特選 慶びの爽樹の空を蒼鷹 松本きみ枝
川口 襄選「爽樹」名誉顧問
特選 星空へ吸ひこまれゆく初蛍 早山きえ子
(選評)暑い日暮れ後、かりがね句会の仲間と新潟の田舎で「蛍狩り」に参加。森の小暗い道を進むと、突然青白い炎の乱舞に目を疑う。丁度蛍の端堺期で大小の源氏蛍と平家蛍が入り乱れ飛ぶまさに幻想的な光のページェントだ。蛍の生態を見事に捉え、蛍への愛情を込めて星空と取り合わせたスケールの大きいメルヘンチックな佳句となった。
準特選 貴婦人と妖婦のはざま鳥兜 佐藤良夫
準特選 一つづつ漁火の消え冬銀河 片山茂子
互選入賞句より
一位 返事せぬことも返事やちやんちやんこ 黛 道子
二位 小鳥来る城下に百の投句箱 一瀬正子
同 小春日や遺品の中に「母子手帳」 松本光子
四位 天を突く宣誓の腕風光る 町田美枝子
五位 夜学子の授業の前の握り飯 鈴木正浩
同 一つづつ漁火の消え冬銀河 片山茂子
〈文責:勝浦〉