爽樹インターネット句会
第64回  鑑賞・選評    11月

爽樹俳句会 顧問 半田卓郎

 コロナ感染者が劇的に減少しており緊急事態宣言はじめ各種の制限が解除されつつあります。この状態でおさまることを切に願いますが、諸外国では感染はいまだ拡大中であり、冬季に向けて感染拡大の不安もあり予断は許されません。句会の運営もほぼ従来どおり開催されておりますが、マスク着用、換気と各人の間隔維持などに注意しつつ実施中です。 
当月の兼題「松手入」「鶴来る」及び雑詠、それぞれについて熱心に取り組まれ力作を提出いただき有難うございました。爽樹ホームぺージ及びインターネット句会のシステムは、(株)DIHのご協力をいただき4月から新しく構築することができまして、使いやすく見易いシステムとなっております。ご使用いただいてご感想ご意見などお寄せください。

兼題 :   松手入 鶴来る 当季雑詠

特選 4 句

高層階月出る筑波日入る富士

一陽 ( 4 )

筑波山は,男体山、女体山の二つの峰をもち神の住む山と言われ昔から愛されてきた。「西の富士、東の筑波」と並び称されて、優美な姿は万葉集、小倉百人一首に詠まれた。富士山は言うまでもなく日本一の高さと美しい裾野をもつ日本霊山である.高層の建物からは、両方の山を眺められる。両方の山を月と太陽で対比して詠んだのは発想がユニークであり又スケールの大きな句である。

高層マンションのベランダからは月の出と日没が一望できるのであろう。大きな景に拍手。 ( 写心 )

確かに月は東に日は西にですね。 ( 夜来香 )

こんな景を見られるのは、高層階住人の特権ですね ( 一歩 )

高層階からの筑波と富士。大きな景色。 ( 葫蘆 )

三鈷松落ちて来ぬかと松手入

霧島 ( 0 )

 高野山の壇上伽藍のそばに聳える三鈷の松は、空海伝説と関係があり著名な話である。弘法大師が唐より帰国する折に、日本で真言密教を広めるための場所を求める為に中国・明州の浜より三鈷杵と呼ばれる法具を投げたところ日本へ向かい飛んで行き、唐より投げた三鈷杵が松に引っかかっていたと伝わる松の木である。高野山で密教を広める事を決めて、現在まで1200年になる。この松は、三鈷杵の形と同じように三葉の松で、その落ち葉をお守りとして有難く頂く。この地が真言密教の聖地として続いているのである。弘法大師の故事と季語松手入を巧みに取り合わせた佳句である。

田鶴渡る棚田の下の大鳥居

泡沫 ( 2 )

千里を飛んで来た鶴にとってはまるで棚田は自分のお誂えの舞台である。稲を刈り終えて居るので餌となる落穂が散ばっている。棚田は餌場でもあり休息の場所でもある。高台の棚田なので棚田の鶴は羽根を広げて村人にその優美な姿を見せる。棚田の下に由緒ある社の大鳥居がある。大鳥居を背景に鶴の舞う景は詩情があり美しい。

なんとも言えない静寂、稲刈りの終わった棚田、そして神への感謝日本の原風景ですね ( 一歩 )

秋らしい景色が見えいただきました。 ( 葫蘆 )

三井寺の晩鐘の声初時雨

山水 ( 1 )

 天台寺門宗の総本山である三井寺は 正式名称を長等山園城寺(ながらさんおんじょうじ)という。 また、湖国近江の名勝、近江八景の一つでもあり、「三井の晩鐘」も著名である。 この梵鐘は、 「天下の三銘鐘」の一つにも数えられている。 姿の立派な宇治平等院の鐘、由緒の正しい高雄神護寺と、音色の美しさで選ばれた三井寺。 つまり、三井の晩鐘は、日本一の響きであると認められているのである。掲句は特に「梵鐘の声」に注目している。耳を澄ますと、この銘鐘、ドレミの「ラ」の音の、四分の一ほど低い音で鳴り響く。 西洋の音楽がド(C)の音を基準音とするのに対して、東洋ではラ(A)が基本になる。 永い梵鐘づくりの経験を経て、鐘の形や大きさ、厚さ、銅の配合といったものから美しいラの音が出るように完成されたのである。初冬の「時雨空」の鐘の余韻に浸る。

季語初時雨が、句全体の句意を受け止めて、その場にいてつつまれる様な空気感 ( 一歩 )

秀逸選 8 句

長き夜や吐息のやうに灯る窓

写心 ( 1 )

秋分を過ぎると夜が長くなったと身に沁みて感ずる。窓の灯りを「吐息のように」と比喩の表現としたところが、この句のユニークな点である。吐息というのは、「緊張感がとけて、肩の力が抜けた時,ちょっと安心」という気持ちである。場合により軽い落胆の時もあるが、この句は前者であろう。秋分が過ぎた頃、まだ昼間は暑いが、夜分には風も秋めきほっとする、この時の灯る窓を「吐息」に、例えたのが斬新である。

ほっと安堵の吐息をつきたくなるような窓の灯火。 ( 夜来香 )

網を引く漁師の頭上鶴来る

霧島 ( 0 )

 鶴来るを詠むことは、状況として何を取り合わせるかである。この句は、「網を引く漁師」ということで漁師を取り合わせたのは、ユニークである。漁船の喧騒の上空を鶴が飛んでいる。鶴も魚のおこぼれをねらうのであろう。

新しく空も整ふ松手入

葫蘆 ( 3 )

 松手入を庭師が行った後は庭は整然となりまさに整うという表現が相応しい。庭木が整然となると、空までも整うという感覚は良い。

松の枝ぶりが整っていく手入れを、空が整うと表現したユニークさ。 ( 写心 )

松手入れが終わって、空が戻ってきた発見。 ( 一陽 )

ちろちろと紅きパンダナ松手入

愚者 ( 3 )

あちこち忙しなく動き回り仕事をすることを、「ちろちろ」というが、「ちょろちょろ」ともいう。紅いバンダナの女性庭師が颯爽と仕事をしているのであろう。

鉢巻でななく今の庭師はバンダナですか。 ( 霧島 )

植木屋の若い職人が忙しく働いている。 ( 夜来香 )

松の葉陰に若い植木屋が見える。大きな松を感じます。 ( 一陽 )

名園の静寂の午後の松手入

夜来香 ( 0 )

晩秋の午後、名園の庭の松手入の情景である。名園ということで今でも著名なのは、金沢の兼六園(石川県)、岡山の後楽園(岡山県)、水戸の偕楽園(茨城県)が日本三大庭園といわれる。名園の静かな午後、庭師が黙々と働く様子が描かれている。

植木屋の三日目一日松手入れ

鈴音 ( 0 )

句またがり、中七胴切れの構成で工夫の跡がみられる。植木屋の仕事ぶりをよく観察して詠まれている。毎日段取り良く仕事をしている様子がわかり、最後に念入りに松手入をしている。歳時記には以前は、「松手入れ」と「れ」がついていたが、最新の改訂版(KADOKAWA版)では「松手入」だけである。

渡良瀬の紅葉の渓に汽笛鳴る

夜来香 ( 3 )

渡良瀬渓谷鉄道の紅葉は、群馬県で2位の人気といわれる。庚申山ではモミジ、カエデ、ナナカマドなどの紅葉が山肌が隠されるほど鮮やかに色づいている。秋の紅葉の時期には「トロッコわたらせ渓谷号」が汽笛を高々に鳴らして運行している景が見えるようである。

写真を見ているような1句 ( 霧島 )

紅葉に染まる渡瀬渓谷を、汽笛を響かせて走る列車、渓谷の遊歩道を歩いている様だ ( 一歩 )

旅立ちは遠きアムール鶴来る

夜来香 ( 0 )

日本最大の鶴の渡来地である鹿児島の出水(いづみ)には、毎年10月から12月にかけて1万羽を越える鶴が越冬のためにシベリアから渡来し、3月ごろまで滞留する。鹿児島県の鶴は国の天然記念物にも指定されている。多くを語らず鶴来るの現実を表現しているのが良い。
選者のワンポイントアドバイス

 原句  幾山河越へし吾が身の松手入
この句は、句意として、「我が人生幾多の辛苦を経たが、今は古葉を取り去り樹形を整える松手入のように我が身をすっきりとした生き方に、自らを変える意思をもっている」のように推察されますが、分かりにくいようです。
その理由は、この句に句中に切れがないためです。切れは、「や」「かな」「けり」が、一般的ですが、その他の助動詞、助詞、名詞も使用されます。切れをいれて「ニ句一章」の仕立てにすることで句意がはっきりするので参考としてください。
 参考例 幾山河越えし吾が身や松手入
 参考例として、著名な下記の芭蕉句の場合を例示します。
     古池や蛙飛び込む水の音    芭蕉
     古池に蛙飛び込む水の音    改悪
     古池の蛙飛び込む水の音    改悪
改悪例の貧しさを見ると「古池や」と切ることの意義が実感できます。「や」には、判断があり認識があり観想があります。
「や」を使うことで、べたで続けることと異なる確かさで句意が構成されて一句が適切に成就されることがわかります。 以上    

互選句 9 句

北国の友の一報鶴来る

写心 ( 2 )

現在ではほとんど、鶴の渡りは見ることが出来ません。この句は実景ですね。 ( 一陽 )

鶴渡る小手をかざして橋の上

一陽 ( 1 )

遠嶺は晴れ渡りけり柿すだれ

みのり ( 4 )

冬の里山の原風景が描かれている、 ( 写心 )

奥秩父の初冬の景でしょうか、日本の里風景が、浮かびます ( 一歩 )

晴れ渡る遠峰そして柿すだれのある日本の風景。 ( 葫蘆 )

自転車の背にはラケット風爽か

愚者 ( 1 )

テニスをしに行く途中か帰りか、爽やかな句。 ( 霧島 )

黙々と鍬ふるをのこ鶴来る

愚者 ( 2 )

農作業に精を出す男の上空を鶴が飛来する景。 ( 霧島 )

晩秋、優美に天空を飛来して来る鶴は、その姿が美しい。その鶴の見える場所で、次のシーズンの為、機械ではなく一鍬一鍬黙々と畑を耕す男の子。充実した感じの取り合せの句です。 ( 山水 )

松手入れ松葉散らばる武家屋敷

一歩 ( 1 )

おそらく旅吟なのでしょう。立派な松、庭園を感じさせます。 ( 一陽 )

鶴来る北の便りを背にのせて

一歩 ( 2 )

便りを乗せて来るのは雁だけではないのですね。 ( 夜来香 )

みちのくの昔語りの夜長かな

一歩 ( 2 )

語り部の媼の昔語りに心を奪われながら、北国の夜は しんしんと更けてゆく。 ( 写心 )

切符切る音のリズムや松手入

泡沫 ( 3 )

チョキチョキとリズムの良い音が聞こえてくる ( 霧島 )

昔懐かしい改札口のあのリズム。 ( 夜来香 )

切符を切る音も松手入れの和鋏の音も懐かしいです。聴覚の句と思います。 ( 一陽 )