爽樹インターネット句会
第63回 鑑賞・選評 10月
爽樹俳句会 顧問 半田卓郎
今年の秋の各種俳句大会などの行事は軒並み中止のやむなきになりました。9月後半以降感染者が急減し、10月から緊急事態宣言も解除され経済活動の再開が期待されております。
感染防止の対策を行いつつ句会を開催しておりますが、冬季には第6波の予測されております。今後とも感染防止に気の抜けない状況です。
先月からリモートによる投句鑑賞会を、毎月8日午後2時から開催しております。ご希望の方は是非ご参加ください。(事前に幹事宛てメールにて申し込みください)
兼題 : 新酒 案山子 当季雑詠
特選 4 句
酒蔵の上り框に酌む新酒
葫蘆 ( 1 )
今年取れた新米で作った酒を新酒という。今年一番の新酒を待ちかねて酒蔵の上り框まできて味あう。酒の醸造は微生物の作用でつくるので出来上がりの品質は微妙な変動がある。期待通りの良品質であることを確かめ満足していることであろう。上がり框という具体性、待ちかねている心情が滲むのが良い.
「丁度いいとこに来やった。新酒の樽を開けたとこや。」「ほんじゃ、いっぱい戴くか」 話が盛り上がり、酒造りの苦労が癒されるひととき。 ( 愚者 )
口元をへの字に案山子父に似る
夜来香 ( 1 )
案山子は、竹や藁で人の形をつくり、田畑に立たせ鳥獣を追い払いその害を防ぐ役割である。 いろいろのキャラクターで詠まれているが、掲句の場合は、口元がへの字であることが父親似であることの具体的な表現に親しみがある。発想がユニークなのが良い.
案山子は過去のものでなく、目の前にあるようです。 ( 一陽 )
師に学ぶ詩の心や竹の春
写心 ( 1 )
先師小澤克己の句碑は、飯能の医王山薬寿院(通称竹寺、武蔵野三十三番結願寺)にある。句碑は、完成した時は先師は病床で訪れることができなかった。爽樹の吟行俳句会や役員有志での訪問などこれまで数回訪問したが、珍しい神仏混淆の寺で著名俳人句碑も多く風情のある寺である。先師の句「竹伐るや昨日と明日の真ん中で」が、寺の中央竹林入り口にある。掲句はこの句に因んで、爽樹の源流である先師小澤克己を偲んでいるのが良い。
先師の句碑の前で静かに流れゆく時に身を任せる竹寺の秋。 ( 愚者 )
診療を待つ間も月の季の話
一陽 ( 0 )
雪月花と言われるように、月は日本の四季を代表する季語で広く詩歌に詠まれてきた。月は四季それぞれ趣があるがさやけさは秋に極まるので秋の季語である。作者は診察を待っている間も問わず語りに月の季語の話に集中している。病状のことなど一時忘れているようである
秀逸選 7 句
女案山子の二枚目こゆる人気かな
泡沫 ( 0 )
案山子は、おおむね男性の姿であるが、美男の案山子より女案山子が注目され人気が高いのであろう。ユニークな発想の句である。
先づ父に献盃をして今年酒
夜来香 ( 1 )
新酒をまず亡き父に捧げる献杯をするのは、新酒開発に亡き父が努力された経緯がるからであろう。献杯をして父に報告してさらに次の目標にむけて心に秘めるものがあるに違いない。
私だったら新酒に目が眩み父のことは忘れそうです。 ( 一陽 )
とくとくと注がれて下戸の新酒かな
写心 ( 1 )
新酒のお祝いで盃に注がれてよい香りを放っている。下戸であるがとくとくと注がれる新酒に喜びを感じているのであろう。擬音のとくとくの表現がよい.
退院し水引の花手折りをり
悠々 ( 0 )
水引の花は、細い花軸の赤の濃い細かな花であり、さりげなく咲くが凛とした趣がある。秋深くなる と、路傍などに特に目立つ。退院してほっとした心を慰めているのである。
山里のバス待つ小屋や昼の虫
霧島 ( 0 )
山里のバス路線には、バスがたまにしか来ないので、待合の小屋がある。小屋の周囲は山野であ り、車もほとんど来ない。様々な虫の声に包まれているのも風情があるものである。
役目終へ畔を枕に捨て案山子
みのり ( 1 )
収穫の時期となり案山子が役目を終える。捨て案山子となるのは運命である。畔を枕に並べられて処分をまつ哀れを催す景である。
役目終えたと言えども畔に捨てるとはもってのほか。 喝!! ( 悠々 )
新酒酌むお薬手帳斜め見て
悠々 ( 3 )
身につまされる一句である。いろいろの持病があれば飲み薬の種類も増えるのはやむを得ない。中に は、飲み合わせの悪い薬、酒をあまり飲まないように医者に言われている薬もある。香ばしい新酒の誘惑には勝てず試飲ならばと、つい過ごすのである。
貴重な新酒、、。美味しいんだか?不味いのか?でも、こたえられないんですよね。 ( 一陽 )
飲酒はほどほどにと手帳に書いてあるのでしょうか。 ( 夜来香 )
結局のところ飲んでしまう自分。よくわかるなあ。ドクターストップ屁の河童ですね。 ( 泡沫 )
選者のワンポイントアドバイス
18. 多彩なる案山子今では村起し
できている句ですが、下五が抽象的な説明的なので情景の表現にすることもできます。助詞の使い方。畔は、畦に、畦の、畦を など検討してみましょう。リモートではこういう話し合いがお互いにできるのが良い点です。
添削例 多彩なる案山子に畔は見物人
16 金色の揺れる真中に案山子あり
稲穂の中に案山子が見える景を描写しており出来ている句です。
なお、「揺れる」は、文語は「揺る」で、下二段活用なので、「揺るる」となります。中七を更に工夫してみましょう。発想転換して、武士の装束の案山子とすればですが。・・
一旦出来たら、それに満足せず、更に推敲してユニークな句としたいものです。
添削例 金色の怒涛の真中案山子殿
互選句 16 句
痩せ枯れて雀と遊ぶ案山子翁
写心 ( 1 )
痩せ枯れてまでの案山子を放置しないでください。あまりに気の毒! ( 悠々 )
同窓のお軽勘平村芝居
夜来香 ( 2 )
故郷に帰って見た村芝居。出演者は幼馴染の面々。 ( 泡沫 )
同窓生による村芝居。秋らしい光景が見えいただきました。 ( 葫蘆 )
新酒にてアールヌーボと言ふらしき
一陽 ( 1 )
バブルのころ日本人は競ってアールヌーボーを買い求めていたものでした。 ( 夜来香 )
水澄むやシアンブルーのインク壺
みのり ( 1 )
水澄むは、澄み渡る秋に水底まで見えるような湖や川の美しさを言うらしいが、インク壺との取り合わせは上手くいったように思う。インクが水に溶けるような色彩が脳を刺激するからか。 ( 泡沫 )
流木の長き旅路や敬老日
みのり ( 2 )
波風に晒された自らの人生を顧みておられるのか。 ( 夜来香 )
敬老会に参加する人々の顔には、それぞれの歴史の襞が刻まれている。あたかも流木に多くの傷があるように。コロナ禍で中止となった敬老会が多いが、これからも元気であってほしいという願いが込められている。 ( 愚者 )
枡の香を鼻にからめて今年酒
霧島 ( 1 )
枡酒とは通ですなあ、香り高い吉野杉の枡でしょうか。 ( 夜来香 )
道たづね左右指差す案山子なり
霧島 ( 1 )
確かに案山子によっては道案内を行っているのもありますね。本来の役目を果たすべきと思いますが。 ( 悠々 )
多彩なる案山子今では村起し
悠々 ( 2 )
村おこしの案山子情緒が無いですね。でも、それが現代の案山子かもしれません。 ( 一陽 )
姫路市の山奥の「奥播磨かかしの里」は、案山子の芸術村である。山に囲まれた村人の絆と優しさが身に沁みる。掲句はその様を伝え、韻を踏んで口調もよい。 ( 愚者 )
大海に沈みゆく陽や捨案山子
愚者 ( 1 )
海を望む収獲の済んだ田の光景が見えいただきました。 ( 葫蘆 )
新酒買ふ今宵行くとの子のメール
愚者 ( 2 )
息子さんだかお嬢さんだかわかりませんが、親としてこれ以上の幸せはないですね。 ( 一陽 )
コロナ禍とはいえ何の遠慮もいらぬ親子酒 ( 夜来香 )
躙り口入れば備前に瘧草
愚者 ( 2 )
茶室の備前焼に活けられた竜胆に感嘆した作者。実景だけの描写でも余韻が。 ( 泡沫 )
敗蓮の池やモノクロ抽象画
山水 ( 1 )
確かに、葉の無残に裂けた蓮田の殺風景な景観はモノクロの抽象画のようだ。「や」はどうだろうか。 ( 泡沫 )
筋書きのありやなしやと新酒酌む
一歩 ( 1 )
新酒酌むとき、理屈はありませんね。いわんや筋書きなど・・・ ( 悠々 )
秋郊に廃校ひとつ駅ひとつ
葫蘆 ( 1 )
我国の山村、漁村の過疎化は進んでいる。小中学校が廃され、鉄道が廃線になり、1日数本のバスだけという地域も珍しくない。秋の深まりと共に侘しさが一層迫って来る。 ( 愚者 )
古酒新酒汲むを藪医者許しけり
泡沫 ( 1 )
なにやら不思議な句です。藪を自認している医者が古酒・新酒をかまわず患者に処方している景でしょうか? それとも朝から飲んだくれている?? ( 悠々 )
小手指古戦場の風吾亦紅
泡沫 ( 1 )
古戦場の吾亦紅に風が渡って行く秋景色。いただきました。 ( 葫蘆 )