爽樹インターネット句会
第62回 鑑賞・選評 9月
爽樹俳句会 顧問 半田卓郎
爽樹インタ―ネット句会 2021年9月
長引く自粛生活で早くも9月になりました。感染拡大して医療崩壊の危機にあります。お互い感染と予防に注意して過ごしましょう。 爽樹のホームページは、本年4月から新らしく作り直しました。特にホームページ上のインターネット句会(以下ネット句会と略す)も、新方式になり毎月改良しつつ軌道に乗ってまいりました。
毎月ネット句会終了後、希望者は、リモート鑑賞会を行っておりますのでご希望の方は参加ください。
ネット句会は、参加者はパソコンやスマホを利用されておりますのでリモート(テレワーク)を利用可能です。リモートは、グーグルミートを使用しておりますので、グーグルアカウント(Gメール)を取得するとすぐ使用できます。(使用方法のご不明の方はご相談ください、あらかじめ通話テストを行います)
毎月ホームページ上で、1日投句締め切り、5日選句締め切り、6日選句結果発表されますが、8日午後2時から3時半に、リモート鑑賞会を開催します。参加ご希望の方は幹事までメールで事前連絡ください。
兼題 : 枝豆 秋簾 当季雑詠
特選 3 句
行く秋や振り子時計の刻む音
写心 ( 2 )
振り子時計は、コチコチと秒針が音を刻んでおり、正時に特有の音とメロデイを発するのがほのぼのとした印象を与える。天井の高い黒ずんだ日本間の景が似合う。過ぎゆく秋を見送る郷愁の思い出である。
振り子時計のなにやら侘しく流れる音。 ( 夜来香 )
通常の家庭で振り子時計を見ることがなくなりました。振り子時計が郷愁を呼び起こしてくれました。 ( 悠々 )
故郷の母無き家の秋簾
夜来香 ( 5 )
故郷の家は、母がいなくなると気が抜けたような寂寥感に包まれる。秋簾は、昔と同じものがかかっている、見慣れた簾の陰から母が現れそうな気がするものである
一人住まいしていた母が亡くなり、空き家になってしまった家。夏の間に掛けていた簾が片づけられないまま、掛かっている寂しさ。 ( 写心 )
故郷にはお兄様でもいらっしゃるのでしょうか?もし、空家になっていたら寂しい景ですね。 ( 一陽 )
重い瓦屋根の母方の実家を思い出しました。 ( 鈴音 )
旧盆に生まれ故郷を訪ねても既に母はなく、ただ母屋の縁に簾が揺れているだけ。もっと親孝行をしておきたかったという悔恨と懐旧の念に溢れる句です ( 愚者 )
故郷の母無き家の秋簾の景色が見え、いただきました。 ( 葫蘆 )
秋の蝶永のいとまの挨拶に
悠々 ( 0 )
夏の間のびのびと飛び回っていた蝶も秋になると、数も減り飛び方も弱弱しくなる。限りある命の舞を、作者の詩心は、永のいとまの挨拶と詠んだ。
秀逸選 7 句
晩酌の父の枝豆つまむ子等
夜来香 ( 0 )
子供たちも、枝豆を塩茹でしたものが大好きである。母親が声を荒げても父の晩酌の枝豆を次から次へとつまむ。枝豆をつまむ子の句は、類想が多いが、枝豆の原風景のような句である。
探求は人の業なりましら酒
泡沫 ( 1 )
ましら酒は、猿が樹の洞などに木の実を蓄えていたのが雨などがたまり自然に発酵し酒となるという空想的な季語である。ましら酒の起源は、本当のところは分からないが色々想像することも夢があり、興味深い。
言われてみればその通り。ゆえに今日の文明がある。昔、樵や猟師が猿酒を探したという、興味と欲望が根底にある。 ( 愚者 )
郷関を出づ掛茶屋の秋簾
愚者 ( 2 )
掛茶屋(かけじゃや)は、路傍の茶屋.郷関は故郷の意。一昔前郷里を徒歩で出て都を目指した青年が国境の茶屋まで来た時の思い、心意気を詠まれた句であろう。幕末の志士の物語の一場面のようである。
強い志を立てて故郷を出奔した。行く先に果たして青山は有るや? 既に夏は終わり、季は秋に向かおうとしている、 ( 写心 )
枝豆や一人静かに縄のれん
山水 ( 1 )
今月の兼題の枝豆は、類型的になるので意外に難しかったようである。掲句は、おつまみの枝豆と飲み屋を取り合わせて,飲み屋での景を切り取った。景が見えて、一人酒の情も滲む、句のリズムも良い。
秋簾未完の景の画架たたむ
写心 ( 4 )
季語の秋簾と取り合わせて、簾の影にある描きかけの景の画架を片付けをしている様子を詠んでいる。未完の景の画の理由は、画家に不測の事件であろうか、理由がいろいろと想像させられる一句である。
一旦筆を置いたのでしょうか?日本画の場合乾かす時間が必要になったり一気に描きあげられない事も多いようですね。 ( 一陽 )
未完の画架たたむとは、今日は御終いなのか、未完のままボツにするのか、どちらにしても夏が終わり初秋の少し寂しい感じがでています。 ( 霧島 )
夏に描き始めた風景画は、なかなか筆が進まず、簾越しに見える景色に秋を感じる頃となってしまった。しかし残暑は厳しく、今日も画架を畳む。時の早さを実感するとともに身の行く末も思いやられ、侘しさもにじませている。 ( 愚者 )
秋にはいり急に日暮れが早くなり、もう少しで完成するのにと思いつつ筆を置く画家の背中が見えました。 ( 悠々 )
孫帰り枝豆抱え立つ老母
鈴音 ( 1 )
動詞を、三個使用しているが、この句の場合は季語の枝豆をめぐる老母の行動と心情をわかりやすく描くためである。 孫が、夏休みが終わり東京にかえることになった。老母が孫に畑で採りたての枝豆を持たせようと茹でたが間に合わず孫は帰ってしまった。老母の残念な様子、淋し気な様子がクローズアップされ、それを見守る作者がいる。
印象が強い不思議な光景に感じました。お孫さん、作者、お母さんの人間関係、お母さんの状況など胸がザワザワする句です。 ( 一陽 )
蜩や上野の杜の夕深む
山水 ( 2 )
蜩の鳴き声と取り合わせた上野の杜の夕べの景、寛永寺や不忍の池を望む大きな景が眼前にあるのが良い。デルタ株の感染拡大で公園での行動も制限されている。
最近上野へ行ってませんが、夕暮れの上野の杜と蜩がいいです。 ( 霧島 )
選者のワンポイントアドバイス
類句、類想をさける。
俳句は僅か十七文字ですから、偶然同じ言葉を使う句ができることがあります。同じ物を観たり、同じような状況から、又同じ季語からの発想ですから偶然同じような句になることがあります。意識的に真似をするのは論外ですが、無意識でも,似ているものを出すのは恥と思わなければなりません。
万一そういう時は、お詫びして素早く取り下げるのが良いといわれております。今回の兼題の「枝豆」は、枝豆から浮かぶ思いが似通ったものが多いのか、身辺にある歳時記の例句と発想が似たものがありました。提出前には歳時記の例句などは必ずチェックするのがよいでしょう。
すらっと句ができた時は、過去に見た記憶からできた場合が多く類想の危険があり、注意する必要があります。
類想をさけるには、心を無にして自然と向かい合うこと、自然写生に徹し対象を凝視し感動する心を詠むこと、などと言われます。十七音のうち季語五音を除くと,わずか十二音ですから、同じような発想は避けられないことです。俳句の詠み方に、「季語を詠む」「季語で詠む」の二通りがありますが、後者、すなわち取り合わせの句とした方が、類想の危険が少ないと思えます。
以上
互選句 15 句
枝豆を米寿の数は食べられず
写心 ( 1 )
米寿の祝いの席でしょうか。孫たちから、年の数だけ豆を食べろと囃されても無理な相談で、喜びの内にも加齢の悔しさがひそんでおり、滑稽味の裏に寂しさが潜んで、身につまされる。 ( 愚者 )
ふと立つも目的忘れ秋簾
霧島 ( 3 )
気持ちがふっと秋簾に移ると前のこと忘れてしまうんですよね。 ( 一陽 )
母が私のことねっと申してます。 ( 鈴音 )
私も、まさしくこの状況が日常茶飯事となってきました。ヤバシ! ( 悠々 )
急ぎ来て電車逃しし秋暑かな
霧島 ( 1 )
秋とは言え速足は背に汗をかくようだ。 ( 夜来香 )
晩酌の枝豆こわく鍋こいし
一陽 ( 1 )
不思議なことに鍋が恋しくなりますね。 ( 鈴音 )
線状雨宿りにならぬ秋簾
一陽 ( 1 )
俄雨に遭遇して、すぐ止むだろうと軒先に避難したことは幾度もありましたが、線状雨となると軒先では命の危険も・・・ ( 悠々 )
寺町の練塀長く秋暑し
夜来香 ( 3 )
古刹の並ぶ寺町は、行けども練塀が続き、日陰も少なく、残暑が身に浸みる。 歴史と季節の移ろいを詠み込み、一抹の無常を感じさせる。 ( 愚者 )
寺町の長い塀と季語が合っていると思い、いただきました。 ( 葫蘆 )
枝豆のかつてあふれしビルの上
悠々 ( 1 )
かつてどこにでもあったビルの屋上のビアガーデンのことでしょう。会社帰りによく行きました。どのテーブルも枝豆とジョッキがあふれていました。 ( 霧島 )
枝豆の殻盛り上ぐるパラ五輪
愚者 ( 1 )
ビール飲みながらその日のハイライトをテレビでみる。自然ビールがすすみます。 ( 一陽 )
ふるさとの水は清冽をみなへし
愚者 ( 2 )
川辺に群れ咲いても女郎花の清楚な趣。 ( 夜来香 )
秋簾草木それぞれ朽ち初むる
悠々 ( 1 )
秋簾も草木も朽ち初むるとの表現は今の季節を良く表しています。 ( 霧島 )
リモートに映る日の影秋簾
泡沫 ( 1 )
モニターに映る簾を背にした雅な佇まい。 ( 夜来香 )
枝豆やあんばいよろし山の宿
一歩 ( 2 )
あんばいよろしは宿が良かったことかな。私は枝豆の塩加減と受け取りたい。旅の宿の湯上りで塩加減がちょうど良い枝豆と冷えたビール、たまりませんね。 ( 霧島 )
湯治にきて、ビールと共に山菜のつき合せを期待していました。なんと最初に枝豆がでて来ました。でもそれはそれで満足! ( 悠々 )
秋立つや風さわさわと山のこゑ
一歩 ( 2 )
秋風を感じる景色です。 ( 鈴音 )
風を山のこゑと捉えたところが良いと思われ、いただきました。 ( 葫蘆 )
枝豆に塩ふる夕や独り酌む
葫蘆 ( 1 )
何を思っていらっしゃるのでしょう… ( 鈴音 )
誰にでも置く隔たりや秋簾
葫蘆 ( 1 )
簾が無くともこの秋はディスタンスが続きます。 ( 夜来香 )