爽樹インターネット句会
第60回 鑑賞・選評 7月
爽樹俳句会 顧問 半田卓郎
沖縄では早くも梅雨明けのようですが、当地ではおおむね梅雨湿りの毎日です。歳時記では既に晩夏ですが、コロナ禍での自粛生活で殊更月日が早く過ぎる感じが致します。高齢者のワクチン接種は進展しており7月は各種会合も注意を払いつつ復活しつつあります。変異株の感染が世界的に拡大しており、またオリンピックの影響なども危惧されます。当分予断を許さない状況が続きそうです。
当句会は、4月以降ソフトの再構築を行いホームページ上でのインターネット句会を新方式で順調にスタートできました。当会のネット句会は、これまでの経験を取り入れ改良してまいりました。ご使用の感想など自由にお寄せください。
兼題 : 夏座敷 青田 当季雑詠
特選 3 句
オリーブの花咲く島のミサの鐘
夜来香 ( 4 )
オリーブの産地は、日本では小豆島などであるが、世界的には3千年前から地中海沿岸地域、ギリシャから始まりイタリア、スペインに及んだ。西洋文明発祥の地であり、例えば旧約聖書に、鳩がオリーブの葉を咥えて帰って来たのをみてノアの洪水が退いたことを知ったと記述されている。 こうした歴史的な背景から掲句は、地中海沿岸のオリーブ畑のある地域に教会のミサの鐘が聞こえる景が想定される。オリーブの花は、黄白色や白色の米粒大の房状の花で密集して咲く。キンモクセイ科であるが香りがしない、ギリシャ神話に因み、花言葉は平和、知恵、であるというが、美しい地中海の現実の景から人類の歴史の重みに思いが及ぶ佳句である。
オリーブといえば小豆島。ミサの鐘となると熊本県の天草かも。オリーブの花とミサの鐘が響きあっています。 ( 霧島 )
五島列島だろうか。オリーブは白い可憐な花をたくさんつける。鐘の音と相まって島の景が目に浮かぶようだ。清らな明るさがよい。 ( 泡沫 )
映画「ゴッドファーザー」のシチリア島の一場面を思い出しました。 ( 愚者 )
木々の香を深めて木曽の緑雨かな
霧島 ( 5 )
木曽谷の森林は江戸時代は尾張藩直轄事業で江戸城築城や造船、土木などに広く使用され枯渇した。 そこで尾張藩は、停止木制度を定めてヒノキなど木曾五木を伐採禁止として保護育成を図った経緯があり、現在も木曽は銘木の産地である。「木の香を深めて」という措辞に銘木の特徴をとらえており、季語の緑雨と相まって夏の森林の季節感、存在感が際立つのである。
木曽の美林に夏の雨が降る。木々の香りが迫って来るようだ。 ( 山水 )
木曾五木の香が匂い立つ雨の木曽街道。 ( 夜来香 )
みどりと、その香に包まれる様です。 ( 一歩 )
夏座敷無口の叔父の影端座
悠々 ( 3 )
夏座敷は、障子や襖などを取り去り、簾などで解放感のある座敷である。無口の叔父が端座しているという描写だけであり説明はない。説明がないのが良い。 叔父の端座している理由は、何であろうか。叔母に先立たれたのであろうか。事業に失敗したのであろうか、或いは新しい職務に就くのであろうか。いずれにしても叔父にとって重大な人生の岐路なので今後の生き方を深慮している。人の一生にはこうした岐路があることがいいたいのである。
なぜ無口な叔父さん(伯父さんではなく)が訪ねてきたのか?いろいろ物語が展開しそうですね。 ( 一陽 )
一族の中の叔父の微妙な立ち位置。 ( 夜来香 )
無口の胸にどんな思いが込められているのででしょうか? ( 一歩 )
秀逸選 7 句
さて一献句会が終わる夏座敷
一陽 ( 1 )
コロナ禍の現在、最も欠けているのがこうした触れ合いの時間が持てないことである。以前普通に行われていたことが今は自粛している。率直にリズムよく述べているのが良い。但し原句は、「句会が終わる」であったが、「が」と「の」は、主格助詞であるが、この句の場合語感から「の」を使用する。「終わる」は、文語文法では正しくは「をはる」なので「句会の終はる」と修正して頂いた。 さて一献句会の終はる夏座敷
このような句会が早く再開できれば嬉しいのですが。 ( 夜来香 )
トンネルを抜けて越路の青田風
夜来香 ( 3 )
トンネルを出て踏み入れた信州の自然、青田の中を行く実感を率直に、季語を生かしストレートに述べているのが良い。
トンネルを抜けると「雪国」ではなく、この季節米どころに入ったといったところでしょうか。暗いトンネルを抜けると青々とした青田が目に飛び込んでくる景です。 ( 霧島 )
トンネルを抜けた途端に目に映る魚沼の青田。涼し気な風が青田を揺らす。 ( 泡沫 )
鳶流れ手庇眩し青田原
一陽 ( 0 )
鳶は、空に舞う姿は見方によっては「流れる」ように見える。巧みに写生している。中七の措辞のまぶしい郷里の景色、青田原の大きい景が良い。「手庇眩し」に作者の心情が滲む。
夕映えの雄々しき古塔滝涼し
愚者 ( 2 )
雄々しき古塔は、謂れのあるもので、作者にとって思い出の古い塔なのであろう。近くの滝の水音も聞こえてくる。
熊野の青岸渡寺の三重の塔を詠われたのか。 ( 夜来香 )
京町家厨を抜けて夏座敷
一歩 ( 0 )
京の町家の特徴は奥に座敷がつらなるなど独特の風情がある。中七の措辞が、京町家の特徴、さらに作者の動きも示唆する措辞である。
青田風畦に佇む影ひとつ
一歩 ( 3 )
代田が青田になり、季節は確実に進んでいる。畔に佇む人影に色々な想いがある、私は、かって訪れた芭蕉の奥の細道の景の「殺生石から蘆野の里」を思い出した。田の畔で詠んだ芭蕉の次の句「遊行柳」に因む事柄は諸説ありで興味深い。「田一枚植て立ち去る柳かな」 (詳しくは、「奥の細道新解釈」小澤克己著など参照)
少し寂しい句ですが、佇んでいるのは誰でしょうか。農作業を終え畦で一服している農夫の姿でしょうか。 ( 霧島 )
青々と広がる田圃の畦にひとり佇む人は、来し方行く末の何を思っているのでしょうか。印象派の絵を思い出させる風情があります。 ( 愚者 )
鷺去りて一色となる青田かな
泡沫 ( 4 )
青田の中に、鷺が一羽いる景はよく見かける。鷺の色と動きが目立つが、鷺が移動した後の景は、まさにこの句の景である。
一点の白い鷺が去って、眸が緑色に染まるような青田。美しい景ですね。 ( 一陽 )
真っ白な鷺が飛び立ち、その後には青田のなみが広がるだけ。そんな絵画の様な景が見えるようですが。 ( 一歩 )
選者のワンポイントアドバイス
15. 大の字を真中に川字夏座敷
家庭的な景を詠まれていてテーマはよいが、中七が語呂が良くない。俳句はリズム感が大事です。「川字」も、見直したい。
参考例 川の字の中に大の字夏座敷
21. 白雲に乗りて昼寝や夏座敷
「昼寝」と「夏座敷」は、夏の季語なので、気重なりです。季語の使用法では「季感」が大切で、通常一季語が原則ですから、それぞれの季語で作句します。気重なりに関して
爽樹俳句会「楽しい俳句入門テキスト」参照ください・
参考例 白雲に乗る夢を見し昼寝覚
参考例 微睡(まどろみ)みて黄昏時の夏座敷
31. 善し悪しの議論やかまし行々子
季語「行々子」の、本意は、繁殖期に雄が「ギョシギョシ」と、にぎやかに囀ることです。
この句は、「やかまし」まで言うのも言い過ぎですが、季語の「行々子」と「議論がやかましい」ことを、取り合わせています。取り合わせの俳句は、「つかづ」「離れず」が望ましいのですが、この句では両方ともやかましいので、「つきすぎ」気味です。
季語の選定をしなおすか、若しくは取り合わせる事柄を再検討した方がよいでしょう。 (参考例1)
もしくは、二句一章の取り合わせでなく、一句一章の行々子を詠む句とするかです。 (参考例 2)
参考例 1 葭切や古利根河岸(かし)の捨て小舟
参考例 2 白熱の議論の如き行々子
互選句 16 句
「三献茶」を賜る夕べ夏座敷
写心 ( 2 )
三成が秀吉に献じた3杯の茶の謂れに倣っていただく茶席は穏やかで、夏の宵の暑さの名残も忘れさせてくれ、話も尽きないのです。 ( 愚者 )
ドロドロとぞめく遠雷下山道
一陽 ( 1 )
登山中に遠雷が聞こえてきました。急いで下山しているのですが間に合うのかどうか。 ( 悠々 )
父と子の大の字に寝て夏座敷
夜来香 ( 1 )
風通しの良い中で気持ちよく寝る姿と夏座敷はよくある取り合わせと思うが、父と子がそっくりな姿で寝ているのは何とも微笑ましい。 ( 泡沫 )
白雲に乗りて昼寝や夏座敷
霧島 ( 2 )
開け放った障子から薫風が流れ込む奥座敷。大の字に寝て、うつらうつらと白雲に乗って下界を眺める夢。あやかりたいものである。 ( 写心 )
都会育ちの私には経験がないのですが、夏休みのお爺ちゃんちの広い座敷を感じさせます。 ( 一陽 )
海風のほしいままなり青田波
霧島 ( 2 )
風の揺らす蕪村の軸や夏座敷
山水 ( 1 )
俳句をたしなむ方の奥座敷であろうか、開け放った障子から爽やかな風が入り、蕪村の掛け軸を揺らしている。掛け軸は「さみだれや大河を前に家二軒」。 ( 写心 )
草むしり充実感にほど遠く
悠々 ( 1 )
暑いし、蚊はでるし、目を上げると広大な雑草原がますます勢いを増して、、。 ( 一陽 )
悠揚と波打つ臍(ほぞ)や夏座敷
愚者 ( 3 )
太った中年男性のいびきが聞こえてきそうだ。気持ちよく睡眠中である。 ( 泡沫 )
お腹を出して昼寝の父親の姿。 ( 夜来香 )
昔は年寄りが裸で昼寝している情景を良く見かけました。それも夏座敷に。 ( 悠々 )
山峡を見廻る鳶(とんび)青田風
愚者 ( 4 )
手前に青々とした田圃、遠方に蒼い山並み、清々しい風、一羽の鳶が輪を描いている大きな景、コロナ禍に塞ぐ心が洗われるようである。 ( 写心 )
青田風に乗り上空から獲物を狙う鳶。鋭い目つきですが、「見廻る」という表現で少しやんわりしています。 ( 霧島 )
鳶が悠々と回っているのは餌を探しているからと思っていました。テリトリーの維持もあったのですね。 ( 悠々 )
小面のあへかなる笑み夏座敷
一歩 ( 2 )
夏の昼下がりの座敷に、恥じらうような笑みを浮かべる若い女の能面が一つ掛けられている様は、安らぎと涼やかさを感じさせます。般若ではこうはいかない。 ( 愚者 )
借景の山の風入れ夏座敷
三里 ( 3 )
何処かのお寺か料亭であろうか、幽谷を模した庭、その向こうに青々とした借景の山、涼しい風が渡ってくる広々とした座敷。騒がしい下界を忘れる一刻。 ( 写心 )
庭の向こうにある山からの風が入り涼しげです。 ( 霧島 )
雨降るか青田に雲の影落ちて
三里 ( 2 )
どんよりとした雲が立ち込めてきました。まもなく雨となるでしょう。その雨への期待も感じられました。 ( 悠々 )
青田の水面に映る雲は、何か伝えてくれるのでしょうか? ( 一歩 )
青田波遠く霞める地平線
山水 ( 1 )
地平線と空が一体となって霞んでいます。きれいな句です。 ( 悠々 )
山門の茅葺き屋根や桐の花
山水 ( 1 )
近隣で茅葺屋根が見られるのはお寺が神社ぐらいになってしまった。その屋根に薄紫色の桐の花が落ちて、神寂びの趣である。 ( 写心 )
風の入る国訛り入る夏座敷
葫蘆 ( 1 )
久しぶりに会う仲間たちの会話にお国訛りがある、そんなあたたかい懐かしい景が見えるようです。 ( 一歩 )
ガード下の飲屋空席扇風機
葫蘆 ( 3 )
扇風器の羽根が風に吹かれてカラカラ回っている風景、、。 ( 一陽 )
コロナ禍の中飲み屋はがら空きだろう。柱の回転扇風機の音が大きく感じられる。 ( 泡沫 )
コロナ禍で来店客が少なくなった新橋のガード下の飲み屋には、扇風機が虚しく回っているだけ。電車の騒音と微かな振動が侘しさをいや増すのです。 ( 愚者 )