爽樹インターネット句会
第58回 鑑賞・選評 5月
爽樹俳句会 顧問 半田卓郎
爽樹のホームページ及びインターネツト句会が4月から全面更新されました。皆さんの忌憚のないご意見をおよせください。
ネット句会新方式初回の4月は、順調に施行できました。2回目の今回は、5月2日から始まる「選句受付」のボタン表示の不具合が生じ緊急で当日午前中に処置させていただきました。原因はも解明し対応致しております。
「爽樹」は創刊十周年を迎え、色々な記念行事を計画しましたが、記念祝賀会など時節柄中止せざるを得ない物もありました。十周年記念俳句大会関連記事は「ホームページのトピックス」として冒頭に記載しておりますのでご参照ください。
兼題 : 亀鳴く 茶摘 当季雑詠
特選 3 句
若き日の恋は逃水百の文
写心 ( 2 )
遠くに水があるように見え、近づくと逃げてしまう。温度差による光の屈折異常により生ずる蜃現象を春の季語で、逃げ水と称する。 掲句は、遺された多くの恋文から青春の愛の思い出を辿り、淡い記憶を逃げ水に例えて懐かしんでいる。発想力の優れた美しい佳句である。
季語と若き日の恋の取り合わせが良く、いただきました。 ( 葫蘆 )
しづしづとロボットの刈る茶摘かな
愚者 ( 0 )
4月~5月は、日本各地で茶摘みが行われる。皆さんそれぞれ縁の地方での茶摘みの佳句を詠まれた。最近の茶畑では、規則正しい機械音が聞こえる。 典型的な昔の茶摘みの景に対して、最近多いのは、ロボットによる茶摘みである。しづしづと言う表現に、時々調子が悪くなる機械を見守る様子まで見えてくる。
眠れぬ夜吐息の果てに亀鳴けり
一歩 ( 0 )
亀鳴くという季語は、春に雄亀が雌亀を慕って鳴くという情緒的な季語である。遊び心と想像力の季語である。朦朧とした春の夕暮れ、水辺でどこからか聞こえてきそうな声である。兼題として挑戦していただき、多彩な「亀鳴く」佳句を提出頂いたことを多としたい。 コロナ禍の行方が定まらず悩みの多い現世である、この句は時事句でもあり、人間の本質に迫る、深い句でもある。中七の措辞は、味わい深い。
秀逸選 7 句
来ぬ人を待てば亀鳴く夕間暮れ
夜来香 ( 5 )
来ぬ人を待つと言うことは色々想像させる。いずれにしても作者にとり、想いの深い人なのである。亀鳴くと言う季語とまさに響き合う情景である。
来ない人はいくら待っても仕方がないと知りながら、もしかしてと未練がましく待つ夕暮れの空しさ。 ( 写心 )
切ない気持ちと反して亀鳴くの取り合わせが良いです。いつまで待っても来ないよと言っているのか、きっと来るよと言っているのか。 ( 霧島 )
予感していたとは言え待ち人ついに現れず、これできっぱり気持ちの整理がついたのでしょうか。 ( 悠々 )
来ぬ人と季語との取り合わせが良くいただきました。 ( 葫蘆 )
花吹雪隅田を詠ふ句碑に舞ふ
夜来香 ( 2 )
隅田川添いの桜の名所を詠まれた。長命寺には芭蕉、三囲神社には、其角の句碑など由緒ある句碑に往時を偲ぶ。
向島の墨田川畔は芭蕉所縁の地である。掲句の句碑は、長命寺にある芭蕉の雪見の句碑であろうか。[いささらは雪見にころふ所まで]。自然石の立派な句碑に、飛花落花が舞いかかる風情の句である。(詠ふ)(舞ふ)と 動詞を敢えて繰返して句にリズムと動きを与え、効果を高めている。 ( 写心 )
春の虹茶畑抜くる高速道
山水 ( 1 )
虹は夏の季語であるが、春にもかかる。それは、淡い虹である。 青空の下、茶畑を睥睨する様な高速道の大きな景である。
東名を走っているとこんなことがありそうです。虹というと午後の感じがあるので東京から大阪にむかっているのでしょうか?でも、この句は微妙に季重なりになるようですね。 ( 一陽 )
亀鳴いて少し書き足す生命線
霧島 ( 4 )
亀が鳴くような情緒に浸り、長生き出来る様な気分にあると言うのであろうか。 ゆったりした春の情緒に浸り、のんびりした作者の心情を表現している。 亀鳴くを聞きたくて長生きをせり 桂信子
生命線とは手のひらの筋のことでしょうか、または生きるか死ぬかの分かれ目の線の事でしょうか。何か深刻な事態を軽くいなしておられるようで・・・。 ( 悠々 )
こだま号抜かれ抜かれる日永かな
霧島 ( 1 )
こだま号で旅行する時の実感が詠まれて居る。次々と後続のひかり号等に追い越されるが、いらいらせずに「日永」で開き直る作者がいる。 動詞「抜く」は、四段活用、抜かれるは、受け身の助動詞「れる」である。 リフレインで、次々と後続車に抜かれ置き去りになる気分を巧に表現している。
どんな状況だか範囲が広そうですね。私は本人がこだま号に乗っていて(いまや、こだま号は新幹線の各駅停車、鈍行列車です。)ゆったり旅をしている状況を想像しました。 ( 一陽 )
若楓むかし語りの武家屋敷
一歩 ( 0 )
黒塀の大きな武家屋敷の景である。垣間見える屋敷には若葉の楓の大樹が 茂っている。時代劇の中にタイムスリップするようである。
古稀となる夫の横顔新茶汲む
三里 ( 3 )
古稀になる夫と二人で、新茶を味会う様子を詠まれた。二人の幸せな心情の滲む一句である。
長年の労苦を刻んだ夫の横顔を妻は労わっている。 ( 夜来香 )
古希を迎えたご主人をしみじみとみて、いろいろなことがあったが頑張って家族を支えてきてもらった感謝の気持ちにあふれています。 ( 悠々 )
選者のワンポイントアドバイス
30, 艶の出し夫婦茶碗や新茶汲む
句意から、切れ字「や」で切らない形が良いでしょう。状態を表す副詞「に」を使用する。
艶のある夫婦茶碗に新茶汲む
縁ある夫婦茶碗に宇治新茶
,6, 亀泣いて揚句の果の玉手箱
鳴くのは、動物、虫、鳥などで、人間は、泣くと書く。この句は、擬人法なので敢えて泣くと記載したと思うが、季語として使用していますので、鳴くが好ましいと思うが?
。 4,春半眼来世ご覧の煤仏
良い題材を詠まれておりますが、色々詰め込み過ぎています。季語の、春半眼も無理です、「眼」があるので、「ご覧」は、言わない。冬の季語になります。
眼差しは来世仏陀の煤払
互選句 14 句
茶摘歌風に流れて富士の山
写心 ( 1 )
春半眼来世ご覧の煤仏
一陽 ( 1 )
半眼の仏様は、何を見つめておられるのだろう。禍に満つる現世を浄土の来世へと念じておられるのだろうか。 ( 写心 )
菅の笠茜襷の茶摘かな
一陽 ( 1 )
はなだ色の秩父の山や茶摘歌
山水 ( 3 )
はなだ色という山のとらえ方が良いと思われ、いただきました。 ( 葫蘆 )
不急とて不要にあらず春散歩
悠々 ( 3 )
自分にとって散歩は不急ではあるが必要なものである。今はマスクして人ごみを避ければいいのである。といった断言が良いです。 ( 霧島 )
コロナ禍にあっても体力維持のため散歩は欠かせません。 ( 夜来香 )
亀鳴くや動悸息切れ止まぬ日々
悠々 ( 2 )
私も若干の不整脈の持病があり季節の変わり目に病気を感じます。晩秋から初夏も同様でたしかに泣くはずもない亀の泣き声が聞こえ気がする時があります。 ( 一陽 )
茶摘女の籠に青き香入るるごと
霧島 ( 2 )
茶摘とは新芽摘みで無くて、香摘みだったのですね。 ( 悠々 )
青き香の比喩がよい。 ( 山水 )
亀鳴くや淡き灯りの隠れ里
愚者 ( 2 )
如何にも亀が鳴きそうな光景。 ( 夜来香 )
出向の五色のテープ春惜しむ
愚者 ( 1 )
五色のテープに見送られるとはきっと栄転への船出なのでしょう。 ( 夜来香 )
茶畑をSL行くや大井川
一歩 ( 3 )
静岡出身の私は、緑濃い茶畑、煙を吐くSLと大井川の光景を思い出します。夏休みに家族でSLに乗ったものです。 ( 霧島 )
茶畑と言うと静岡をイメージしてしまいます。近くに狭山の茶畑があるのに、、。静岡の観光ポスターのような風景ですね。判り易いです。 ( 一陽 )
茶畑、大井川、SLとまさしく駿河の定番ですが、リズムが良くて思わず口ずさみます。 ( 悠々 )
茶畑の防霜ファンのまはる空
泡沫 ( 1 )
誰もいない茶畑に春の雨でも降っていて、防霜ファンが風に吹かれて(電源が入っているのではなく)鯉幟の矢車のように所在なげに回っている、そんな想いがします。 ( 一陽 )
夕映の茅花流しの無人駅
泡沫 ( 2 )
夕映えに茅花が白く光り、風に靡いている様が、無人駅の侘しさを物語っている一句。 ( 写心 )
茅花流しが吹くと雨が降るという。茅花が広がる中にポツンと無人駅がある光景。茅花流しという季語初めて知りました。綺麗な季語です。 ( 霧島 )
艶の出し夫婦茶碗や新茶汲む
三里 ( 3 )
長い歳月を睦まじく過ごしてきた老夫婦が新茶を汲む。愛用の茶碗の深い艶の表現が良い。但し上五の艶の(出し)に一工夫欲しい。 ( 写心 )
割れもせず使い込んだ茶碗に夫婦の年輪を重ねているのか。 ( 夜来香 )
茶摘女の両の手染めし茶の色香
葫蘆 ( 2 )
茶の色香で、新茶の青い香りと茶摘女がうら若い女性であることが覗えます。 ( 霧島 )