爽樹インターネット句会
第57回  鑑賞・選評    2021年4月

爽樹俳句会 顧問 半田卓郎

爽樹インターネット句会   選句・選評 ご挨拶
                                 

4月から爽樹俳句会のホームページ及び、ホームページ内に組み込まれている、インターネット句会は構築し直して新しい形になりました。
爽樹のホームページ及びインターネット句会は、これまで六年間結社内での研究会有志のグループ活動を通して自前で構築し運営してまいりました。
この度、ITソフトの専門会社のお力添えを頂き、自動化などの最新の技術をとりいれて、ホームページとインターネット句会のシステムを設計し製作して頂き、4月から運用開始致しました。
斬新な設計思想のもと構築しておりますので、今後ネット上での俳句界の句会運営のシステムとしてご参考になるものであると思います。ご関心のある方のご参加をお待ちします。
 今後共よろしくお願い申し上げます

兼題 :   独活 柳 当季雑詠

特選 3 句

誰そ彼の訃音に独活のほろにがし

霧島 ( 0 )

訃音は、訃報のことである。「誰そ彼」は親しい人の死の報に接し「あいつが」という万感の想いが素直に表現されている。人生の黄昏に通ずる言葉でもある。人の心情が滲む表現は心を打つ。 独活のなかで山独活はことさら苦みが強い。突然の親しい人の訃報に忸怩たる思いが季語の苦い独活により巧に表現されている。俳句は短いが故に季語の選択が重要なのである。(卓郎)

青天の古都南京に柳絮飛ぶ

夜来香 ( 1 )

中国江蘇省南京市は、明朝創業の地で北京と並ぶ中国の重要な大都市である、かって国民政府の首都であり、日中戦争では日本軍が攻略した曰くの都市でもある。中国は柳の木が多く水辺の柳は中国を象徴する独特の景である。季語柳絮により中国のイメージが鮮やかである。かって訪れた南京の想いが凝縮している一句である。中七へ句又がりで古都南京としたことで句に厚みが出来た。(卓郎)

柳絮は、それだけで一つの景を想起させる好きな言葉であったが、まだ見たことがなかった。数年前の春、中国の北京郊外の街を歩いていると、北湖に流れ込む疎水があり、赤い小橋があって、なにやらかつては花街だったらしい風情。と俄かに風に乗って雪が降ってきた。えっ?と思って手で掬ってみたら真っ白な綿毛。これが夢にまで見た柳絮なのであった。 ( 写心 )

紅灯の揺るる疎水や糸柳

愚者 ( 4 )

湖沼などから水を引いた水路を疎水という。特に有名なのは琵琶湖疎水である。疎水と毘沙門堂など周囲の由緒ある数多くの寺社との景は季節折々の風情があり、特に新緑の頃は美しい。紅灯と季語のしだれ柳の組み合わせの色彩美が強調されており基本二型の特色が発揮されている。                                              (卓郎)

京であろうか、疎水沿いの花街の景が見える。夕風に糸柳が揺れ、三味の音さんざめき、宴はこれより盛り上がる。 ( 写心 )

情景がはっきり浮かび、季語も効いた良い作品で、好きです。 ( 三里 )

紅灯の映る疎水に沿って糸柳が続いている景色が見え、いただきました。 ( 葫蘆 )

秀逸選 9 句

花の雨珈琲の香の吊ランプ

霧島 ( 2 )

満開の桜もひと雨毎に衰えてゆく。心残りの花の雨降りでやむなく立ち寄った気の利いた珈琲店で過ごす一時も味があって中々良いものである。下五の措辞によりコーヒー店の雰囲気を見事に表現している。俳句は、言葉を選び抜くことであり推敲が勝負である。(卓郎)

そこだけが別世界で、音もなく暖かな雨も忘れるひとときですね。 ( 鈴音 )

花の雨とコーヒーの香、吊りランプのとりあわせが良く、いただきました。 ( 葫蘆 )

柳影老の釣針魚光る

一陽 ( 4 )

水辺の柳の木影で,魚釣りをする老人は、定点吟行の石神井池などでよく見かける。不思議なことに魚釣り禁止の看板がある。釣り上げて放す趣味のようで許されるのであろうか。釣り上げた魚が、竿や糸に触れる「あたり」、所謂「魚信」を楽しんでいるのであろう。その時ばかりは老人の目も光るのである。                  (卓郎)

悠々たる隠居生活。 ( 夜来香 )

柳影に坐して釣糸を垂れる老人の姿に太公望を思い浮かべたのであろうか。でも太公望の糸には釣針は付いていなかったはず。穏やかな春らしい趣のある一句である。 ( 写心 )

柳の影で釣れる釣れないは別にして、ひがな一日のんびりと糸をたれている光景。魚が光って見えるがなかなか食ってくれない。 ( 霧島 )

春疾風子に初陣の時来たり

写心 ( 2 )

春の突風のなかに子は敢然と挑戦してゆく、何に挑戦するか言っていない。どう思うかは読者にまかせている。俳句ではこういう手法を時々使う。野球のバッターボックスにたったのか、サッカーのピッチに出る事になったのか。読者は想像するしかない。何であれ子供なりに、緊張して挑戦するのを、作者ははらはらしながら一面頼もしく見て居る。(卓郎)

子の初陣とは何でしょうか。親御さんの高揚した気持ちが伝わりました。 ( 悠々 )

「子に初陣」入学、入社、または何かの大会に出場か。色々想像します。「春疾風」が雰囲気を醸し出しています。 ( 霧島 )

季ならぬ雪のやうなる柳絮舞ふ

写心 ( 0 )

柳は黄緑色の花を開き果実が塾すると雪のような絮が飛ぶ。これを柳絮という。 また柳絮吹雪ともいう。風情のある景である。(卓郎)

青柳や舟の行き交ふ隅田川

山水 ( 3 )

隅田川には著名な橋が極めて多い。隅田公園がある東岸の堤は墨堤と言い桜の名所である。掲句では柳に着目している。基本型に忠実な仕立てであり、遠景と近景がバランス良く配置されている。 (卓郎)

隅田川といえば川沿いの柳、当たり前の一句であるが、 私の苗字を織り込んでくださったことに感謝して選句。 ( 写心 )

時代小説の世界に引き込まれるようです。 ( 一歩 )

年かさね独活も肴の仲間入り

悠々 ( 1 )

年齢を重ねると飲む酒も変わって来る。それに伴い肴の趣向が変わってくるものである。酒の肴の趣向に煩い作者は、最近独活も好物となった。 (卓郎)         

そうだ、そうなのだと思い知りました。まだまだ遠い想いです。 ( 鈴音 )

柔らかに頬掠めたる柳の芽

葫蘆 ( 1 )

折からのそよ風に揺れる柳の芽を作者は心地よく感じて居る。陽春の午后のくつろぎの水辺の景である。自らの身辺のことを具体的な物により表現して詠むことは俳句にとり大切なことである。 (卓郎)

迷ひなど退散独活の酢味噌和

三里 ( 0 )

独活の酢味噌和は作者の大好物なのであろう。酒のお供に欠かせない物になっている。迷ひなど退散とは、取り敢えず独活酢味噌ということのほか、気持ちの迷いまで失せることを表現している。 (卓郎)

下げ来たる独活を酢味噌のまづ一献

愚者 ( 1 )

「友あり遠方より来たる又楽しからずや」と言う心境であろう。コロナ禍がおわりこの句のような時が早く来て欲しいものである。折に触れ呟きのように詠む即興の俳句も俳句の姿である。即興と諧謔は俳句のもつ大事な特徴でありこの句のように呟くことも大事にしたい。(卓郎)

互選句 14 句

芽柳や船頭の唄やはらかし

霧島 ( 2 )

のどかな景色と船頭さんの声が懐かしく思い出されます。 ( 鈴音 )

長閑な暖かい空気に、包まれるようです。 ( 一歩 )

対岸の柳水面を揺らしけり

悠々 ( 1 )

春の光が水面に光る中青い柳の揺れる様が浮かびます。 ( 鈴音 )

春めきてやうやく五千歩きけり

悠々 ( 1 )

冬が去り私も五千歩ほど散歩するようになりました。 ( 夜来香 )

土室の乳母日傘や独活白し

写心 ( 2 )

乳母育ちの独活の大木などと言われぬように。 ( 夜来香 )

掘られた室の中で育てられる透き通るような白ウド。日高市の大谷沢などで栽培されている。料亭などに行き八百屋には出ないという。乳母日傘の措辞が絶妙である。 ( 泡沫 )

独活香る饅を小鉢に夫婦酒

夜来香 ( 1 )

しみじみと味わい深いが、漂います。ふたりの過ごしてきた時間の重さを噛みしめます ( 一歩 )

父祖の地に知る人も無く桃の花

夜来香 ( 2 )

年一回の墓参りに行きました。桃の花は迎えてくれましたが、既に知人は無。時の移ろいに無常を感じました。 ( 悠々 )

親の地には知り合いが残っているが、祖父の地となると流石に知り合いはもう居ない。桃の花が効いています。 ( 霧島 )

シャキシャキと軽き調べや独活の椀

山水 ( 1 )

はんなりの京に来てをり花の雲

三里 ( 1 )

はんなりの京と花の雲が響き合っています。 ( 霧島 )

芽柳や雨にけぶれる佃島

三里 ( 3 )

墨絵の世界が見えるようです ( 一歩 )

芽柳と雨の佃島の景色が見えいただきました。 ( 葫蘆 )

湯の街の謂れ語るは角柳

一歩 ( 1 )

橋脚にとまどひ思案の花筏

愚者 ( 5 )

桜花は何に戸惑っているのでしょうか。 ( 夜来香 )

花筏を擬人化した作である。中七の「とまどい思案」の 表現が、橋げたに引っかかって困惑気の花筏を巧みに表している。 ( 写心 )

そういう句に慮れる深さがあるのだなと感じ入りました。 ( 鈴音 )

花筏のとまどいとは、良く観察されました。右へ行こうか左がよいか、いずれにせよ分かれなければなりません。 ( 悠々 )

流れて来た花筏。橋脚に行く手を阻まれ、さて右に行くか、左にいくか、少し留まるかと思案している。目の付け所が面白い。 ( 霧島 )

空を向きかりんの花や凛々と

鈴音 ( 1 )

ダム湖へと沈みし家あり独活齧る

泡沫 ( 3 )

八ッ場ダムを思い起こしました。村全体が沈んだのですが、そのことを近くの茶店で独活を食しつつ感じられたのでしょうか。 ( 悠々 )

ダム湖にまつわる、歴史や哀しみが伝わってきて切ないです。 ( 一歩 )

マスクして知らぬ顔して夕桜

泡沫 ( 2 )

この時節、ソーシャルディスタンスもマナー かと。 ( 夜来香 )

桜見物もコロナ禍で自粛・自粛です。とは言え心も体もウキウキして出かけてしまいました。しかし、知人を見かけ、マスクを良いことに声かけず・・・・ ( 悠々 )