爽樹インターネット句会
第56回 鑑賞・選評 2021年3月
爽樹俳句会 顧問 半田卓郎
3月末を目標に爽樹俳句会のホームページとインターネット句会の再構築を実施中です。
新しい形で4月からスタートする計画で準備中ですのでご期待下さい。
当句会は、ホームページ上での通信句会のほかに、テレワークによる検討会を希望者と行っております。当句会は幸い全員がネット利用者なので全員がテレワーク可能な環境にあります。
コロナ禍での自粛生活で、今は人と顔を合わせて話がなかなか出来ない状況であり、リモート検討会での会話は貴重です。日時など後に幹事が案内しますので奮ってご参加ください。
テレワークは、ソフトはグーグルミートを使用しますので、Gメール登録をしていれば参加出来ます。
操作法は、難しくありません。未だの方は幹事に問い合わせてみてください。
兼題 : 蛤、三椏の花、自由題
特選 4 句
蛤つゆや篝火揺るる緋毛氈
山水 ( 2 )
緋毛氈が敷かれて篝火のある宴席の景である。非日常の景の中で膳の蛤つゆの香りがふと懐かしい。数年前の明治神宮での姪の神前結婚の宴を思い出す。
詩的な情景が浮かぶ魅力的な作品で、大好きです。 ( 三里 )
雛祭りの夕餉を料亭の庭で祝ったのであろうか。緋毛氈に座し、篝火の灯りを浴びる家族の楽しそうな横顔が見える。もちろん主役は一番小さな女の子。潮汁に穏やかな夜の海が口いっぱいに広がる。 ( 写心 )
ふうわりと意志あるごとき牡丹雪
一陽 ( 3 )
春の雪は、溶けやすく多少積もっても直ぐ消えてしまう。ふんわりと物の上に積もって、まるで意志があるよう解け方で姿を消すのである。
牡丹雪の淡い感じが良く出ている。 ( 霧島 )
牡丹雪が微風に吹かれてそれぞれ舞っています。それぞれに意志のある動きととらえられました。 ( 悠々 )
三椏の花遠近に和紙の里
葫蘆 ( 1 )
淡黄色の三椏の花は、黄瑞香ともいい趣のある花であり早春の里に心を和やかにする。三椏は、高級和紙の原料でもある。埼玉では、小川町が和紙の里として著名であり風情のある町である。
其方此方に三椏の花が咲き競っても静謐な和紙の里は紙を漉く音ばかり。 ( 夜来香 )
梅が香の杣の庵や遠浅間
山水 ( 4 )
浅間山を望む場所で、木材を切り出すことを仕事とする人の家の景である。庭の梅の花が香る大きな景である。
遠浅間ののぞめる杣の庵に、梅の香が微かに漂う。そんな景が見えます。 ( 一歩 )
苛酷な職業である山人も小屋に戻ってほのかな梅の香りに包まれて遠くに浅間山を眺めると、ほっとするのです。一仕事終えた安堵感が滲み出てきます。 ( 愚者 )
早春の信濃の情景であろうか。一幅の山水画のようだ ( 夜来香 )
秀逸選 9 句
三椏や三たび訪ねし人の留守
泡沫 ( 3 )
三度訪ねて不在であったということと三椏の三のリフレインが面白い。散策の途中の友の家などで用事も無いが、顔を見て立ち話をということも楽しみなのである。諧謔味もある。
三国志にある三顧の礼を思わせる。留守だったお方は、訪問者にとってどういう人であったのか、またその関係をいろいろ想像させる。 三椏の穏やかな黄が句意全体に効いている。 ( 写心 )
三回とも留守というのが、下を向いている三椏の花と合う。 ( 霧島 )
三椏の花と三回の留守宅訪問を結び付けられました。今の時代に3回も訪問されるとはどんな事情があるのでしょうか。 ( 悠々 )
蛤つゆや笑窪のしるき晴着の子
三里 ( 3 )
美味しい蛤つゆに笑みがこぼれる、晴れ着の女の子の可愛いらしさを詠んだ一句である
晴着の女の子の、お日様の様な笑顔が見えます。笑窪のしるきの表現に惹かれました。 ( 一歩 )
桃の節句で晴れ着を着た女の子の表情が可愛いです。 ( 一陽 )
お孫さんのお食い初めでしょうか。家族の喜びの溢れた一句。 ( 夜来香 )
句と花を描きて手作り貝合わせ
写心 ( 2 )
貝合わせに手書きの絵を描いて子供を喜ばせる作者の優しさが伺える一句である。
平安時代から今も伝わる遊戯。もともとの相方とのみぴったりと合う。貝の内側に描かれる絵柄にも、両面合わせて一つの物語を紡ぐ。雛の日に手作りの貝合わせなんて、どんな思いを込めたのでしょう。 ( 一歩 )
何と高雅な趣味人! ( 夜来香 )
三椏や杣の道ゆくうす明かり
一歩 ( 0 )
杣道沿いに三椏の花が咲いていて、道が黄色に明るくみえるという写生の効いた一句である。
盤上の蛤石の強さかな
一陽 ( 1 )
蛤の殻から作った碁石であろう。碁を好む人に良い石、良い碁盤に凝る人が多い。勝負に勝ち気持よく、道具自慢をしているのであろう。
兼題「蛤」から蛤石の発想が面白い ( 霧島 )
誰そ彼や三椏の黄の仄灯り
写心 ( 2 )
三椏の花の黄色は、早春の自然の中では目立つものである。先を歩く人は知人に似ているが誰だったかと思案する散策の一時である。
たそがれ時、三椏の花の色が、うっすら行くてを照らしている。 ( 一歩 )
陽春や目覚むる四方の雑木山
葫蘆 ( 1 )
春になり雑木林は、一斉に芽立ちが始まる。素直に春の息吹きを詠んでいる。
谷戸や里山の春の風情を濃く感じます。 ( 一陽 )
汁物の蛤もありお食い初め
みのり ( 0 )
生後百日のお食い初めは、無事に育ったことの感謝とお祝いの行事でお目出度い。汁物の蛤の良い香りも親心である。
投函の百歩の道も冱て返る
夜来香 ( 4 )
春先は、三寒四温というが寒い日は厳寒がぶりかえす。郵便ポストへ投函するだけの外出も寒さが身にしみるのである。日常の些事も俳句に詠むと味のある句となることがわかる。
なが~い蟄居生活で外出も侭ならぬ毎日、しかし季節は無縁に過ぎて春もすでに半ば。明るい日射しにつられて郵便ポストへ出かけてみたものの、なんと冴返る風の寒いこと。 ( 写心 )
通信句会の投句締切は明日。今朝は寒さがぶり返してきているが、午前中に郵便局のポストに入れないと間に合わない。中七できつい寒さが身に浸みます。 ( 愚者 )
段々と暖かくなり、体調も良くなってきたので久しぶりにポストまでならと外出しました。たかだかそこまでと思ったのですが、室内と外では大きく違うのです・・・。 ( 悠々 )
互選句 14 句
一湾に映ゆる富士が嶺焼蛤
愚者 ( 2 )
いろいろな風景を合成しているようなところがあるが、広重の東海道五十三次を思わせる風景が面白い。 ( 一陽 )
情景が目に浮かびます。 ( 三里 )
花時計薄く隠して春の雪
みのり ( 4 )
本来春を感じさせる花時計に春の雪が降ってしまって残念な風景。 ( 一陽 )
春の雪の特性が良く表れている。積もった雪が今は花時計を薄く隠しているが1時間後にはすっかり解けているだろう。降り始めたばかりだとすると降る雪が花時計をうっすらと隠すのかもしれない。 ( 泡沫 )
「薄く隠して」が淡く消えやすい春の雪に合う。 ( 霧島 )
春の雪が花時計の上にふんわりと積もりました。きれいな情景です。 ( 悠々 )
蛤つゆを含めば海の拡がりぬ
葫蘆 ( 5 )
含むという表現が、蛤つゆの上品な感じと調和しています。 ( 三里 )
蛤のお吸い物を口に含むと、海に対する思いが拡がった。 黒潮、親潮等の豊饒の海、潮の香り、潮騒・・・ 雰囲気の良き句と思いました。 ( 山水 )
蛤の汁物(潮汁)を含めば、潮の香が口いっぱいに広がり、 穏やかな春の海、飛び交う鴎、真綿のような雲までが見え、 明るい景がどこまでも広がってくる一句である。 ( 写心 )
蛤の澄まし汁を一口含んだ時の芳醇な味と香りが、「海の拡がりぬ」で増幅されます。一瞬の幸せ感が伝わります。 ( 愚者 )
味覚を刺激して海の記憶を引き出している。塩味と言うより海の香りと風味が心象の中に大きな海をもたらしているのだろう。眼前には蛤つゆがおいしそうに湯気をたゆらせている。 ( 泡沫 )
雪見とは雪なき土地の人の遊
写心 ( 1 )
全くそのとおり。 ( 霧島 )
蛤の椀もめでたき御食ひ初め
夜来香 ( 1 )
女の子の御食い初めなのでしょう。ふっくらとした蛤が目出度さを感じさせます。 ( 三里 )
ずつしりと蛤提げて年金日
霧島 ( 3 )
年金日は辞書に見当たりませんが、年金支給日でしょう。 ( 山水 )
蛤の水揚げ量が減り、生きた蛤の値段は高くなりました。 今日は年金の支払日、特別な記念日ではないけれど、妻と食事を楽しみたい、という風情が感じられます。 ( 愚者 )
2か月に一回の年金の振り込み日。ずっしりと思えるほどの蛤を収穫した。年金の加算と言うかちょっと儲けた感じが本人の歓びとなって全身に表れている。これも蛤の高級感がそうさせているのだろう。 ( 泡沫 )
水鏡の三椏の花はにかめる
愚者 ( 1 )
慎ましやかな三椏の花は如何にもはにかんだように咲いている。 ( 夜来香 )
三椏の花と尼僧に降る光
三里 ( 1 )
春の日差しの中で尼僧が三椏の世話をしている様子が見え、ほのぼのとした清らかな感覚が伝わってきます。 ( 愚者 )
蛤のふたたび泣きて放心す
泡沫 ( 1 )
焼き蛤の様子が的確に描かれています。 ( 三里 )
三椏の花に進路を託しけり
悠々 ( 1 )
三椏はその名のとおり枝が三本の三俣になっている。選択肢が三つあるかのように。占いではあるまいが進路を託すという。花の雰囲気は明るい未来を窺わせる。この年になっては進路と言ってもたかが知れているか。 ( 泡沫 )
おぼろ月紙飛行機のゆく彼方
一歩 ( 2 )
童話か絵本に出てくるようなメルヘンを感じます。 ( 一陽 )
割箸の割りそこなつて春寒し
霧島 ( 2 )
時として、割箸を割りそこないます。しみじみと箸を眺め、そのまま使う場合と廃棄する場合があります。 どちらにしても割箸はその役目を果たして貰わねば。 ( 悠々 )
面白い句。ユーモアと暖かさを感じさせられいただきました。 ( 葫蘆 )
美濃紙に野の三椏の花想う
一陽 ( 1 )
美濃紙から三椏の花を連想するという発想がいいと思いいただきました。 ( 葫蘆 )
結論に加齢ですねと春愁ひ
悠々 ( 4 )
まさにその通り。痛いほど共感です。上五中七と季語が響きあってより一層頷けます。 ( 一歩 )
集まれば会話は、どこが痛む、眠りが浅い、などなど。 みんな同じ愚痴ばかり・・・。 ( 写心 )
春愁ひの送り仮名「ひ」は要らないですね。「加齢ですね」は話し言葉そのもので口語。口語と文語が混じるのはダメと教わってきたが、巷間満ち溢れている。鉤括弧つければよいというのも何だか。私も医者に言われた。 ( 泡沫 )
加齢をユーモアにしてしまうほのぼのとした句で、いただきました。 ( 葫蘆 )