爽樹インターネット句会
第51回 鑑賞・選評 2020年10月
爽樹俳句会 顧問 半田卓郎
兼題 : 秋耕、夜食、当季雑詠
特選 3 句
秋耕の考(ちち)の姿や荒田風
一陽 ( 0 )
収穫の後の田畑の土を鋤き返す男の姿、一人で黙々と働く孤影に、ふと亡き父の面影を思いだした。父の一生を思い懐旧の念に浸っている。しみじみとした句である。
トラブルに夜食並ぶる係長
悠々 ( 0 )
工場の事故やクレームなどのトラブルは、突然起きる。修復作業を夜を徹して行い漸く見通しがついた頃、皆で夜食を取ることとした。作者は係長として自身で手配し率先準備をしている。職場の一体感、苦しくも楽しくもあり、生きがいでもあった仕事と仲間を回想している。
惜別のフライトの影秋灯し
愚者 ( 0 )
見送る飛行機の灯しが、空にぐんぐんと小さく遠ざかる。去り行く恋しい人を思う微妙な心情が交錯するのである。
秀逸選 7 句
間違いの重なりし日や流れ星
みのり ( 0 )
間違いをして、しかも一度ならず繰り返すという最悪の状況にある。再起不能の落ち込みなのであろう。悠久の宇宙を見て心を取り戻したのである。
鰡飛んで釣舟闇に消えにけり
悠々 ( 0 )
鰡の跳ぶ魚影の多い海域の釣舟が、釣り終えて夕暮れの海に消えてゆく。釣舟の喧噪から静かな海が遺された。
秋蝶に花の好みのありにけり
写心 ( 0 )
9月を過ぎると蝶も数が減ってくる。秋の花盛りの中の秋の蝶の生態を観察している。
野分過ぎ空の青さに深呼吸
鈴音 ( 0 )
野分が過ぎた後は、気持ちの良い晴天になる、この句は下五の深呼吸という措辞がよい。
秋耕や影の伸びゆく猫車
三里 ( 0 )
猫車は、前輪一輪の手押し車であり、畑仕事の際に運搬に使う。中七の措辞は、夕日のもとでの農作業の手じまいを描写しているのが良い。
昼月にレモングラスのティータイム
三里 ( 0 )
テラスでのティータイムのくつろぎの一時、昼の月とレモングラスの色彩感がよい。
秋耕を終へて土神に一礼す
悠々 ( 0 )
土神は、土を司る神で、土公神とも言う。秋耕を終えて一礼をして土神への感謝の念を新たにしたのである。畑に、屋敷墓のある農家の方は、墓に一礼される。
選者のワンポイントアドバイス
「ラジオから深夜放送夜食かな」
「かな」で終る、基本3型の句は、句の途中で切らない方が良いとされます。爽樹テキスト参照ください。 「かな」を使わない場合。
参考例 ラジオから深夜放送夜食とす
深夜放送というとラジオと言わなくてもわかります。代わりに別の表現ができます。
俳句では、一般に不用な言葉、無駄な言葉は使わないようにします。
参考例 ラジオから昭和の歌謡夜食とす
「秋耕の土の向こうに栗林」
栗も、秋の季語で、季重なり。原則は1季語とします。季語別に作句します。
「向こう」は、口語、文語は、「向かう」
参考例 子が拾ふ畝の間(あはひ)の虚栗
参考例 秋耕の畑隣りと長話