爽樹インターネット句会
第48回 鑑賞・選評 2020年7月
爽樹俳句会 顧問 半田卓郎
新型コロナウイルス感染症は未だ感染拡大期にあり、かなりの長期化が懸念されます。今年の3月から、会場に集まるリアルの句会は行われず、爽樹では多くの句会は、通信句会の形式で行われております。唯ネットですべて処理できず、ファックスや郵送の混在する運営は、極めて煩雑で、取り纏めをする幹事の苦労が多いのも事実で、長続きするには問題がありそうです。 私の関係する句会では、リモート(テレワーク)もとり入れて運営を始めております。会員に個々に操作を覚えてもらいながら軌道に乗りつつあります。態々遠くまで出掛けなくても会えて議論ができることで句会の新しいスタイルが構築できるのではと期待をして進めております。 当インターネット句会の方ならば容易に採用できることでもあります。ご意見ご希望がありましたらお寄せ下さい。
選句基準について:
新入会の方も居られるので改めて考え方を整理して記載します。
① 有季定型の基本により、爽樹テキストの規範に添うこと。
② 伝えたい内容が明確に適切な言葉を使い表現されていること。
③ 情景俳句の「新しさと個性」を目指し、詩情豊かで、発想や事柄などが斬新であること。
兼題 : 山開、冷麦、当季雑詠
特選 3 句
発起して富士へ一歩の山開
悠々 ( 0 )
季語「山開」は、開山祭とも言われる夏の登山シーズンの初めに行われる儀式で、鎮座する神により日は、一定しない。富士山は、山梨県側は毎年七月一日、静岡県側は7月10日に行われる。しかし今年は、新型コロナウイルス感染症のため登山道は閉鎖される。従って開山祭は、行われない。掲句は、「発起して」という上五の措辞により富士山登山の期待と心構えが明確にしめされている。更に中七の「富士へ一歩」の措辞により正にズームのように作者の句意が要約されている。適確な表現力である。登山祭の儀式を通じて富士登山の期待感が大きいこと事が伝わる佳句である。
籠り居の膳は冷麦薬味の香
一歩 ( 0 )
人類は、今正に百年に一度の感染症蔓延の危機の最中にある。ワクチンの無い現状ではひたすら、蟄居し耐えることしか手立てはない。蟄居中の夏場の食べ物としては冷水にさらし、薬味と濃い味の汁でたべる冷麦が極上である。蟄居して冷麦を味合える幸せを思わなければならない。
一里塚君待つ肩に青時雨
一歩 ( 0 )
青葉の頃雨上がりにその下を、歩くと雨がはらはらと落ちてくる情景を表現するのが、青時雨の季語である。里程の目安に一里毎に松などを植えている一里塚は今でも古い街道筋にある。中七の措辞により著名な小説の一場面を想像できるが、若しくは作者の思いでなのかいずれにしても情緒のある佳句である。
秀逸選 8 句
一年を経て友と逢ふ山開き
夜来香 ( 0 )
山登りを趣味とする人とこの句のように毎年山開に登山と決めていたのであろう。富士登山何回と記録作りの人がいた。
冷麦を一つ鉢より新所帯
夜来香 ( 0 )
新所帯の時は、不自由を不自由と思わないものである。多かれ少なかれこれに類した経験はあり、共感を呼ぶと思う。
馬の背を閉ざす雲海槍ヶ岳
写心 ( 0 )
槍ヶ岳登山の一句。雲海の季語の使い方が巧みである。
谷川に冷や麦ひたす休暇かな
葫蘆 ( 0 )
登山の楽しい一時を切り取っている。谷川の涼しさがつたわる。詠嘆の助詞のかなの使い方がよい。
ひと雨の待たるる真昼冷し麦
三里 ( 0 )
酷暑の昼は、特に共感する一句である。
くちなしの花や旅籠の箱階段
三里 ( 0 )
箱階段も懐かしい光景である。木曽路の古民家では今でもある。動詞を使わず、中七胴切れ、句又がりの巧みな句である。
冷麦の紅の一筋漆椀
山水 ( 0 )
冷や麦には、色つきの麺が僅かにある。赤いものを特に子供が欲しがる事を思い出す。
夏暖簾貼り紙残し店はなく
悠々 ( 0 )
閉店となり、張り紙の残る店先。 日に褪せた暖簾が揺れている景であろう。最近の時勢ではコロナ禍による倒産の厳しい現実でもある。
選者のワンポイントアドバイス
「輪をくぐり夏越しの祓え祈りをり」
季語の夏越は、茅の輪をくぐり祈るものですので、この句は季語の説明になっております。俳句は、季語は共通認識ですので季語の説明はしないように詠みましょう。
「駿河路や松原いよいよ梅雨景色」
俳句は、5/7/5 が基本ですが、この句は、中8です。この句は、出来ておりますがそのために語呂がわるくなりリズムも良くありません。
特に中七は守るように詠みましょう。 いよいよを、「いよよ」という表現にする事も出来ます。