爽樹インターネット句会
第44回 鑑賞・選評 2020年3月
爽樹俳句会 顧問 半田卓郎
コロナウイルスによる感染症は、未だ収束の気配がなく不安な毎日であります。このウイルスは、未だ分からない所もあり、また他のウイルスと違う面もあるようです。なんと言っても、未だ薬がない状況で、開発に相当時間が必要のようです。通常の句会は、急遽メールまたは郵送での通信句会にきりかえて運営しております。その点本句会は、従来通りのペースで開催することが出来ます。
兼題 : 猫の恋、たんぽぽ、当季雑詠
特選 3 句
老いてなほ闇を彷徨ふ猫の恋
夜来香 ( 0 )
季語「猫の恋」は、滑稽諧謔を好む俳人が、特に好む季語で色々な切り口から詠まれており類句が多い。数多の先行句にたいして独自性のあるものをめざすことにしたい。掲句は、老猫に焦点を当てた。中七の措辞「闇を彷徨」の措辞に共感する人が多いのではないか。
愛猫も獣と気付く春の闇
写心 ( 0 )
日頃愛らしいペットが、突然本能に目覚めて粗暴になる。作者の驚きがにじむ一句である。「どっきり感のある」中七の措辞がユニークである。
ドラキュラの棺出づるや春の月
パセリ ( 0 )
季語の「春の月」は、秋の月と異なる趣きがある。朧であり重たげで橙色で輪郭も滲んでいる。なにやら不気味な ドラキュラの物語を想像して取り合わせた作者の発想は面白い。俳句はこのように自由な発想力で世界を広げられる。
秀逸選 7 句
廃村の朽ちたる納屋や猫の恋
一歩 ( 0 )
人口減少で、「廃村の朽ちたる納屋」という現実があるのであろう。野生化した猫が自由に闊歩しているのかも知れない。
廃駅へつづく枕木鼓草
一歩 ( 0 )
この句も、廃駅で既に鉄道は廃止され枕木だけが残る景である。蒲公英だけが昔と同じように咲いている。
たんぽぽのぽぽふはふはと青き空
夜来香 ( 0 )
蒲公英の絮を、「ぽぽ」といったのは、加藤楸邨の句、「たんぽぽのぽぽと絮毛のたちにけり」が、最初で昭和の初め頃、その後、坪内稔典が後に、「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」の句を作った。更に「たんぽぽのぽぽのその後はしりません」 という句をつくった。口語表現でユーモラスな句で著名である。掲句はそれを踏まえて、青空へ飛ぶのを詠んだ。経緯を踏まえて鑑賞してみるのも面白い。
子らよ翔べ蒲公英のごと地の涯へ
愚者 ( 0 )
蒲公英の絮は、自由にとぶ印象がある。若者へ飛躍せよとエールを贈る一句である。最近の若者は内向きなのは、残念なことである。
浮かれ猫死闘の果てのとぼけ面
悠々 ( 0 )
戻った恋猫は、確かにこの句のように、それまでの騒ぎは何だったと思うほど「とぼけ顔」をしている。恋猫の一面を巧みに描写している。
博多より文に挟みし梅一輪
愚者 ( 0 )
菅原道真公の古事を踏まえた一句であろう。道真公は、平安時代の貴族、最高位の学者であり政治家で、右大臣であったが、陰謀による政略で太宰府へ左遷された。天満天神として学問の神として祭られている。梅の名所でもあり著名な「東風吹かば匂ひおこせよ・・」の和歌がある。博多からの手紙にはさまれたこの句の「梅一輪」は、太宰府、学問の神様縁の梅一輪であり学業成就の願いの一輪であろう。
たんぽぽの黄は燦燦と鉄路跡
写心 ( 0 )