爽樹インターネット句会
第32回 鑑賞・選評 2019年3月
爽樹俳句会 顧問 半田卓郎
漸く暖かくなり春めいてまいりました。爽樹インターネット句会は、新発足して一年になりました。毎月熱心に参加していただき有難うございます。ご要望、ご意見などお寄せください、今後ともよろしくおねがいします。
兼題 : 黄砂、踏青、当季雑詠
特選 3 句
霾や一対一のロスタイム
愚者 ( 0 )
霾(つちふる)の季語は、黄砂が降ることである。仲春の季節風で中国北部の黄土地帯で舞い上がった砂塵が日本に迄やってくる。この句の措辞は、サッカーの試合が一対一で拮抗した状態なのであろう。残された僅かのロスタイムの間でゴールを決めて勝利をつかむ為に必死の攻防が続いている。一天俄に、黄砂の立ちこめる空模様となり、劇的な試合となったのであろうか、何も言わないが読み手に想像させる佳句である。
特攻の飛び立ちし野や青き踏む
夜来香 ( 0 )
第二次大戦の末期、特攻作戦が行われた。当時の飛行場跡地を訪れた作者は変わり果てた特攻基地を散策し、若くして散った特攻戦士を偲んでいるのである。青き踏むの季語の斡旋も適切である。特攻基地は他にもあったが、鹿児島知覧の旧特攻基地はかっておとずれた。
切り株に鳥の饒舌風光る
パセリ ( 0 )
春の明るい光が野山に満ちてくると色々の鳥が姿を見せる。春は野鳥の繁殖期であり囀りが賑やかになる。切り株にもいろいろ鳥が行き交い、鳥の声がいかにも賑やかな様子を饒舌と表現した。目映く明るい春風を季語の風光るで巧みに表現している。
秀逸選 7 句
黄砂降る籠りて過去に浸りけり
真珠 ( 0 )
黄砂の降る中、やむなく閉じ込められた作者は、過去の記憶を思いだしているのである。詠嘆の「けり」が効いている。
玄奘の大志阻みし黄砂かな
深山苧環 ( 0 )
玄奘〔げんじょう〕は、中国16世紀の物語「西遊記」の三蔵法師の名前で、お供に孫悟空、沙悟浄、猪八戒の3人を従えて、中国からお経を求めてインド〔天竺〕への旅の物語である。黄砂の中での様々な出来事が想像されるのが良い。俳句は、過去にさかのぼることも、未来へ飛翔することできるのである。
老いゆくは野道ゆくごと青き踏む
葫蘆 ( 0 )
老いとは、野道を歩むこという措辞は深い意味合いがある。新春の野原は、日々新たにということを示唆しているのであろう。更に深読みすれば、宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」でカムパネルラとジョバンニの、宇宙の旅においてブラックホールらしき景色が見える空間まで旅をする。そこである「野原」をさしてカムパネルラは「あそこが本当の天上なんだ」というが、「野道」とはそうした「野原」への道という意味で考えることもできる空間である。
語らねど分る二人や青き踏む
愚者 ( 0 )
春の山野を歩み、言葉に出さなくてもわかり合える二人の間柄を再認識しているのである。語らねど分かるという措辞がよい。
蒲公英や再建されし朱雀門
山水 ( 0 )
平城京の朱雀門の立派な建物と路傍のたんぽぽの取り合わせが良い。 秘められた遙かな歴史を振り返っているであろう。
白酒や老人会の童唄
愚者 ( 0 )
白酒は、雛祭で出される酒で季語である。老人会での童唄と雛飾をした会場での白酒の取り合わせの一句である。老人会では、誰でも知っていて童心に返る童唄を皆で歌い和む。こうした景が、はっきり見えるのがよい。
ショパン弾く孫の横顔風信子
深山苧環 ( 0 )