爽樹インターネット句会
第28回 鑑賞・選評 2018年11月
爽樹俳句会 顧問 半田卓郎
季節の移り変わりは早く今週は立冬を迎えることとなります。今月の兼題は、敗荷と紅葉狩という味のある季語です。皆さんから渾身の作品が多く寄せられました。
兼題 : 敗荷、紅葉狩、当季雑詠
特選 3 句
紅葉狩る山路の果ての平家村
夜来香 ( 0 )
紅葉の美しさを鑑賞するために山野、渓谷をたずねることを紅葉狩という。平家の落ち武者の部落あとが各地に平家村として残っている。多くは山奥にあり「山路の果て」の措辞が良い。情緒のある一句である。
秋深し世事を離れて檜風呂
山水 ( 0 )
晩秋の寂寞寂寥感が、秋深しの季語から読み取れる。旅先であろうか非日常の環境なのであろう。檜の香りの清々しい檜風呂で過ごす感慨を詠まれていて共感する。
敗荷や生の流転の物語
写心 ( 0 )
敗荷と物語との二物取り合わせの句である。刀折れ矢尽きた生き様にも様々な浮き沈みがあったのである。 人の一生は、確かに物語である。人生の機微を詠む句、言わば深い句となった。
秀逸選 5 句
雑兵の打たれし様(さま)に破蓮
パセリ ( 0 )
敗蓮に、暮秋の風がふく様はいかにも、うらぶれた感じなので破蓮という。 この句の措辞は、こうした蓮の状態の比喩としての「雑兵の打たれし様」がよい。いかにも無残な雑兵の姿を彷彿とさせる。適切な比喩、手垢のつかない比喩を選ぶことが大切である。
敗荷や濁りに染まぬ鯉はぬる
悠々 ( 0 )
季語の敗荷との、取り合わせの一句である。無残で、うらぶれた様子の破れ蓮の池に、鮮やかな色彩の鯉が悠々と泳ぎ、時にはねる姿の対比が良い。取り合わせの句は、即き過ぎず離れすぎず、適当な距離感のものを選ぶのが基本である。
荒城の濠の敗荷風に鳴る
夜来香 ( 0 )
荒れ果てた城の濠にある敗れ蓮の景はいかにも寒々としている。風だけが音を立てている景に昔を偲んでいるのであろう。一物仕立ての句で、リズムがよい。
妥協なき神の采配紅葉山
パセリ ( 0 )
紅葉の山の様子を、妥協のない神の采配と断じている。紅葉の色彩の美しさは、人が作り得ない美しさなのである。余りにも美しく人智を越えた神の領域である。
煩悩は振り払ひたり破蓮
真珠 ( 0 )
敗蓮の姿に、終生の煩悩が振り払われた姿であるとみたのであろう。言わば悟りの境地の感慨がある。敗蓮の姿についての思いの深い佳句である。
選者のワンポイントアドバイス
(景が見える句) 選者
「まだ遊ぶもつと遊ぶと暮の秋」
爽樹・情景俳句は、景のみえる俳句をめざしております。
自分の感情、感覚をのべてこれを季語でうける作り方の場合は、「季語がみえるものとみえないもの」それで「感覚的にみえるものと見えないもの」の、四通りの組み合わせ〔パターン〕を選ぶことになります。
この句の場合、例えば、後の月、古酒を舐む、敗れ荷 など作者の意図により、見える季語を選択すると、味のある良い句になります。詳細は、「爽樹誌28年1月号情景俳句論考」参照ください。