爽樹インターネット句会
第26回  鑑賞・選評    2018年9月

爽樹俳句会 顧問 半田卓郎

今年は、異常な酷暑、西日本の大雨、大規模の台風襲来等など想定外の天候が続きました。残暑厳しい昨今ですが9月も中旬には秋めいてくるものと期待しております。今月の兼題は、衣被と蜩でした。衣被は里芋の親芋の周りに出来る子芋、孫芋で、子孫が増える縁起物とされました。十五夜を芋名月と呼び里芋を供えるのもその縁起によります。蜩は、七月末頃から明け方や夕刻にカナカナと澄んだ美しい声で鳴き、儚い鳴き声でいかにも秋の雰囲気があります。

兼題 :   衣被、蜩、当季雑詠

特選 3 句

衣被世事遠退けて楽隠居

山水 ( 0 )

この句は、上五の季語の衣被に中七下五の事柄を取り合わせて俳句を詠む手法〔爽樹初心者テキストの基本一型)で詠んだ句です。中七下五で、浮き世離れの暮らしぶりの隠居を描写し、本人も回りの家族も満足した暮らしぶりであることが読み取れます。季語の衣被から、家族円満な暮らしぶりまで想像されます。基本型は四種類あり、爽樹では初心者講座で特に俳句作りの原則として作句に応用するように勧めております。作句では、先ず基本にそい詠むように試みてください。

頓着の無き惣領や青瓢

パセリ ( 0 )

青瓢は、青瓢箪、千生り、等とも言われ、夕顔の変種です。この句は、下五に季語を置いて、上五中七の措辞との取り合わせの句で、爽樹初心者テキストの基本型二型に相当する作り方です。惣領は、家督を継ぐ長男、長女のことを指します。おっとり育って物事を気にしない性格なのでしょう。季語の青瓢から何時になっても老けない性格である事が示唆されます。

蜩の命の火照る夕日中

愚者 ( 0 )

地上に出てからの寿命の短い蜩は、いかにも儚い印象です。夕日の中に蜩を見た作者には、赤い夕日に蜩の短い生命が火照るように感じられたのでしょう。中七の表現に工夫が見られる句です。この句は、他の句とことなり、一句一章の句です。即ち季語の「蜩」そのものを詠んでおります。この場合類想になりやすい危険が多いですが、この句は独自性をたもっていることを評価します。

秀逸選 6 句

古伊万里の小鉢の罅や衣被

夜来香 ( 0 )

古伊万里の小鉢は、 曰くのある器なのでしょう。思い出の器かもしれません。それで多少の皹があっても使っているのでしょう。この小鉢に、特に衣被が似合うのです。

生くるには嘘も方便衣被

愚者 ( 0 )

上五中七の措辞は、嘘は悪いにしても、世渡り上多少の嘘は良しとする事もあることを「方便」と表現しております。衣被と言う日常性の物との取り合わせが、上五中七の措辞と響き合うものがあります。

かなかなやなかなか止まぬ警報機

夜来香 ( 0 )

かなかなを言い換えてなかなかとした措辞を用いた句が、他にもありましたが、この句が優れております。下五の「警報器」の取り合わせ意外感があり良いこと。開かずの踏切のことを示唆する点と、中七の表現が諧謔味も在る句になりました。

ひと皮を剥けば鬼女なり衣被

写心 ( 0 )

衣被の季語として、皮付で剝いて食べるものですが、そのイメージを活かした句の構成となっております。しかし句としてはあくまでも取り合わせです、外見はやさしそうですが、実は「鬼女」と言うことで怖そうです。

踊子の反すかひなに風のたつ

愚者 ( 0 )

盆踊りの踊り子の科の要点は腕の動かし方にあります。反すかひなの措辞に優美な動きが見えてきます。下五の措辞も風情のある表現です。この句は、季語の「踊り子」を詠んでいる一物仕立ての句で、季語の特徴を良く捉えております。下五を、「風立てり」のように、完了の助動詞「り」を使う方が一物仕立ての特徴がでます。

ふるさとのひぐらしの森暮れなずむ

真珠 ( 0 )

秋の夕暮れの故郷の景が浮かびます。思いっきり遊んだ子供の頃の思い出が、蜩の哀愁のある鳴き声とともに脳裏にあります。

互選句 0 句